学校で


 ――綾香――


 冬夜くんの家に住むことが決まった翌日。私はいつもよりも上機嫌で学校に向かっていた。


 そのため周りからはいつもより視線を集めている。というよりもう声が聞こえる。なにがあったのかとか彼氏でも出来たのか?みたいな声が。正直鬱陶しいけど今の私には気にならない。


 大好きな冬夜くんとの同棲が決まったしこれからの生活に夢を持っても仕方ないよね?


「今日はやけに上機嫌だね、綾香」

「うん、昨日はいいことがあったからね」


 彼女は私の友達で十六夜いざよい さくらという。中学の時から仲良くしていて高校も一緒になった親友とも言える人だ。


「そう言えば引越っししたんだっけ?」

「うん、昨日したんだよ」

「それで上機嫌なんだ」

「そういうこと」

「周りの視線が大変そうだね……」

「もう慣れたし大丈夫だよ」


 とは言ったものの流石に今日のは鬱陶しい。どうにか対策をしたいんだけど……時間が経つのを待つしかないかな。


「綾香、不機嫌なのでてきてるよ」

「ん……ありがと」

「その仮面はいつまでもとれなさそうだね」

「高校を出ればなんとかなると思うよ、冬夜くんがいるし」

「婚約者だっけ?」

「うん、高校をでれば結婚するしね」

「大学はどうするの?」

「適当なところにいくよ」

「どうせ婚約者の人が行ってたとこでしょ」


 桜がちょっと呆れたような目で見てくる。まぁ実際そうだから反論できないんだけどね。


「そうだ、今度白ちゃんと黒ちゃんの3人で遊びにいってもいい?」

「冬夜くんがいいって行ってくれたら大丈夫だよ」


 白ちゃんと黒ちゃんは双子の姉妹でいつも一緒にお昼を食べたりしている仲の2人だ。


「2人は婚約者さんのことしらないんだっけ?」

「うん、言ったことないからね」

「きっと驚くだろうね」

「まぁ今どき婚約者なんて時代遅れでしょ?」

「それがお互い好きってだけで続いてるんだから余計すごいよ」

「……それを言われると恥ずかしいんだけど」

「頬を染めてる綾香もかわいいね」

「桜に言われてもうれしくない」

「婚約者さんに言われたいもんね?」

「うるさい……」


 私はちょっとうつむいてそう返した。相変わらず桜は私を煽るのがうまい。桜のこういうところには暫く勝てなさそうだ。






 午前中の授業が終わりみんな食堂や屋上などごはんを食べに行く。食堂は席が決まっていて遅いと取れないのだけど私のためにスペースが空いているので時間は気にしなくてもいい。まぁそんなことをされたところで嬉しいわけではないんだけどね。わざわざ探す手間が省けるので利用しているだけだ。


 私は冬夜くんが作ってくれたお弁当を持って教室をでる。桜はいつも購買のパンを買うため授業が終わってすぐに教室を出ている。多分白ちゃんと黒ちゃんがすでに席についているので若干急ぎ目で向かう。


「あ、綾ちゃんこっちこっち~」

「席は決まってるんだから呼ぶ必要ないでしょ」


 食堂についていつもの席に近ずくと2人に声を掛けられる。ちなみに前半の元気があるほうが黒ちゃんで、後半の落ち着いているほうが白ちゃんだ。


「待たせちゃったかな?」

「いえ、私たちもさっき来たばっかりなので」

「さくちゃんは?」

「そろそろ来るんじゃないかな?」

「ごめんね〜いつもより混んでて遅くなっちゃった」

「大丈夫ですよ、桜さん」

「そうだよ〜さ、ご飯食べようか!」


 それぞれ自分の昼食を机に並べ同時にいただきますを言って食べ始める。


 私はいつもより期待に胸を膨らませながら弁当箱を開ける。そしてそこにあったのはとても手の込んだおかずの数々だった。ハンバーグや卵焼き、ポテトサラダなどの王道のおかず。これが美味しくないわけないだろう。


 私はハンバーグから口につけ思わず箸を止める。昨日私が作ったものより遥かに美味しいのだ。私も料理はある程度できる自信があったけどそれが完膚なきまでに叩き潰された感じだ。


 それだけの美味しさとなると当然口数が減るわけですぐに皆に心配される。


「綾香さん大丈夫ですか?」

「ん?」

「いえ、いつもより口数が少ない……というより全く喋っていませんが」

「……ん。いつもよりお弁当が美味しくてつい夢中になってたの」

「作った人違うの?」

「うん、今日のは……」


 ここまで言いかけて気づく、どう説明しようと。2人には冬夜さんのことは言っていないし当然引っ越したことも。少し迷っていると桜が助け舟を出してくれた。


「2人にはまだ言ってなかったけど綾香は引っ越しをしたの」

「そうなの!?」

「そうそう」

「それがお弁当とどう関係があるので?」

「えっと、そこの家主のお兄さんに作ってもらったの」

「お兄さん?」

「うん、幼なじみのお兄さん」

「もしかして2人暮し?」

「そうなるね」


 冬夜くんの話になると私の機嫌はさらに良くなっていく。しかし今は昼食時、沢山の人がいるのだ。


「さくちゃん……もしかしてこれ……」

「多分そのもしかしてだよ」

「今日の帰りは喫茶店でも行きましょうか」

「そうだね、お姉ちゃん」

「なにか食べたいの?」

「「綾香さんあやちゃんを問い詰めるの」」

「……あれ〜?」


 どうやら私は選択肢を間違えたらしい。というかこれ引っ越しの話をした桜のせいだよね!?

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