同棲スタート
「え?ここに住む……?」
「うん、お母さんたちが海外出張で私がついていくわけにもいかないし泊めてもらうことにしたの」
「そんな話聞いてないけど」
「冬夜くんのお母さんには伝えたよ?」
「ちょっと電話してくる」
飯はほとんど食べ終わっていたのでスマホを持ち母親に電話をかける。
「もしもし」
『あらー急にどうしたの?』
「なんで綾香のことを言わなかった」
『あら?言ってなかったかしら?』
「言われてない」
『ごめんね~まぁ問題ないでしょ?』
「問題はないが準備とかあるだろう」
『あぁ隠すモノとかあるものね』
「ないわ!」
なんで実の母親に隠すモノの話をされなければならん……
『まぁ頑張ってね〜』
「まだ話は……」
こちらの意見を一切聞かずに話を終わらせられる。全く自由すぎる母親だ。
「綾香が住むことはとりあえずわかった」
「うん」
「荷物はどうしてる?」
「私のを引っ越すって」
「……いつ」
「今週末」
「ならそれまでは俺の部屋のベットでも使っててくれ」
「え?」
「流石に女の子をソファに寝かせる訳にはいかないしな」
「私別に気にしないよ?」
「俺が気にする、それとも俺の部屋は嫌か?」
「そんなことはないよ!寧ろご褒美だよ!」
「お、おう……」
ものすごく食い気味に否定された……相変わらずこの部分は昔から変わってないな。
「なら俺の部屋で寝てくれ。PCとかも好きに使ってくれて構わないし不便があったら言ってくれ」
「検索履歴とか大丈夫?」
「母さんといいお前も聞いてくるの!?」
「冬夜くんも男の子だし……」
「はぁ……仮にそういうモノがあったとしても俺は合意かつ法に則った上でしかやらないからな」
「流石だね」
「これが普通だろ……」
やや疲れてきたので返事が雑になってくる。しかし再認識したが女の子と同棲なのか……しかも俺のことが好きな子。もてよ俺の理性。
「とりあえず綾香は風呂に入ってこい。部屋の準備をしておく」
「わかった」
そう言って綾香はパタパタと風呂に向かう。俺は食べ終わった皿を水にだけつけておいて自分の部屋に向かう。
軽く掃除機をかけたりベットメイキングをして机の上の資料も整理する。元々綺麗に使っていたため時間がかかることはなく終わった。
その後は洗い物をしたり洗濯を畳んだりして綾香がお風呂をあがるのを待っていた。
「お風呂ありがと〜」
「ん」
「ねぇ、髪乾かしてほしい」
「いいぞ」
綾香の持ってきたドライヤーを手に取りソファに座る。綾香は床(絨毯は引いている)に座った。
昔のように綾香の綺麗な黒色の髪を乾かしていく。綾香の髪は常日頃から手入れされていて梳いても全く引っかかることはなくすごくスベスベしている。それこそずっと触っていれるほどだ。
「なんか久しぶりだね」
「いつぶりなんだろうな」
「ん〜冬夜くんが大学行ってからだから……6年?」
「そんなに空いてたか」
「そうだよ〜」
「お互い変わったな」
「私は冬夜くん好みに育ったと思うよ?」
「……相変わらず綺麗な髪だな」
「露骨にそらしたね……でもありがと」
「ん」
「ちなみに今の格好になにか一言」
「直視はしないようにしている」
「やっぱり刺激が強いかな?」
「少し暖かくなってきたとはいえ薄すぎだ」
「そっか、なら明日からもう少し露出の少ないのにするね」
「そうしてくれ」
今綾香が着ているのはベビードールと言うのだろうか。中は見えないようにしているがそれでも露出は多く正直目のやり場に困る。
おそらく綾香はそこら辺の高校生より発育がいい。程よく育った胸にキュッと引っ込んだお腹、そして引き締まったお尻。正直綾香に誘われたら断れるか怪しい。
その時は家出でもして断るしかないが。
「ほい、乾いたぞ」
「ありがと、冬夜くん」
「おう」
「あっ、これはお礼だよ……んっ」
「……おい」
柔らかくてほのかに暖かい感触が頬に当たる。
「……なにしてるんだ」
「婚約者だしね?これぐらいはいっかな、って」
「よくない」
「そう?」
「婚約者だとしても気軽にこういうことはするな」
「なんで?」
「俺がお前のことを襲ったらどうするんだ」
「その時は受け入れるよ、幸い今はお風呂あがりだし」
「……はぁ」
「ふふっ」
「お前俺のこと好きすぎるだろ……」
「そういう冬夜くんも私のこと好きだよね」
「……今日は疲れてるだろうし早く寝ろ」
「いつか答えは聞かせてもらうよ」
「その時が来たらきちんと答えるさ」
それだけ言うと綾香は満足した顔で俺の部屋に向かっていった。綾香は今日いい眠りに着くことが出来そうだな。対して俺は……
「はぁ……」
綾香にキスをされた頬に手を当てる。先程の感触を確かめるように、それを大切にするように。
同棲1日目。いやまだ1日目とも言えないだろう。だというのにこれはまずい。せめて綾香が卒業するまでの後約2年は耐えなければ……いずれ籍を入れるその日までは。
覚悟のような誓いをきめて冷めきったコーヒーを飲み干す。それはいつもよりもずっと甘く感じた。
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