第4話 遥かな影-4
* * *
いつもと同じように学校を出てバス停に向かう途中、急に呼び止められた。はっとして振り返るとそこには、元木がいた。明るい所で見る元木は、一層うす汚く、ばさばさの髪の間から覗いている瞳は冷たかった。
一緒にいた友達の目を気にしながら別れると、元木が招く方へついて行った。
人目がない駐車場の片隅に着くと、元木はニヤニヤ笑みを浮かべながら美加に向き直った。
「約束通り、シメてきたぜ」
金網に背をもたれさせながら、元木は言った。
「え、何?」
「ヤキ入れてやったってことさ」
「え?」
「わかんねえ奴だな。お前に手を出さないように、話つけてきてやったってことさ」
「でも…」
「なんだ。証拠が欲しいんだろ。ほら」
元木はスマホを開くと写真を見せた。そこには、見知らぬ男がうす汚れた姿で倒れている姿が写っていた。
「これ…?」
「そいつが松下っていうチンケな奴さ。力もないくせに虚勢ばっかで」
「でも、本当に本当なの」
「あ、そうか、松下の顔、知らねえんだな。じゃあ、こっちの写真も」
次に見せられた写真には、剛が土下座していた。泣きながら何か言っているような写真もあった。唖然として見ていると、元木はにやりと笑った。
「そんな程度の奴さ。親分がやられたら、あっさり土下座さ。今後、一切、あんたにはつきまといません、とさ」
「ど…どうして?」
「簡単さ。松下の奴にシンナー掛けて、火つけてやったのさ。のたうちまわってる間に、ヤキ入れるって寸法さ。簡単だろ」
「ひどい……」
「あんたのためさ」
元木はニヤリと笑んだ。
「それより、あんた、約束。覚えてるよな。一日俺に付き合うってこと。今度の日曜、空いてるか?」
「あ、えぇ…」
「日曜の午後一時、ひばりが丘八幡の駅前に来な。いいな」
「…ぅん」
「来なけりゃ、あんたも、燃えちまう運命だぜ。なんてな。そこまでは、やんないけど、約束は約束だ。守らないってんなら、こっちもそれなりにさせてもらうぜ。覚悟しときな、いいな」
「…ぅん……」
「じゃあ、日曜。よろしく」
元木が去って美加は震えていた足をようやく動かすことができた。何故か、後悔する気持ちが沸き起こっていた。
―――誰か、助けて。
そう思いながら、ふらふらとバス停に向かった。
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