第2話 遥かな影-2
夕闇が終わって夜の帳が下りつつある。街灯がほんのり眩しく感じられる。
昨日と同じ時間、同じ道を辿りながら、美加は不安だった。
―――今日も、いたらどうしよう。
そう思いながら公園に近づいた。公園の中の灯かりは煌々と輝いている。鉄棒もジャングルジムも陰影を強く浮き立たせながら佇んでいる。昨日のベンチには誰もいない。ほっとして往き過ぎようとすると、公園の入り口から人が出てきた。剛だった。
「や、やぁ」
おどおどとした表情で美加に話し掛けてきた。その立った位置は、美加の行き先を阻んでいるように感じられた。
「あ、あのぉ、昨日の件なんだけど…」
「そ、それは、断ったじゃない…」
「い、いゃ、そのぉ…今日、松下さん…あ、昨日言ってた先輩の人なんだけど…、その松下さんに美加ちゃんのこと話したら、どうしても会いたいって言って、どうしても会って欲しいんだ」
「そんな。勝手に決めないでよ」
「ね、お願い。緑ヶ丘の女の子なんてなかなか知り合うチャンスがないから、よけい興味があるみたいでさぁ、ね、一回だけ。頼むよ」
「いやよ」
「頼むよ。助けると思って」
「どうして助けることになるの」
「い、いや、その…」
「変じゃない。いやよ」
「頼むよ」
拝むように美加の前に立ちはだかる剛を交わそうとして、交わしきれなかった。美加は何とかすり抜けようとしたが、剛は拝みながらそれを阻んだ。
「どいてよ」
「頼むよ」
美加はついにそこを通ることを諦めて引き返そうとした。しかし、剛は美加の腕を掴んだ。
「何するの」
「逃げないでよ。聞いてよ。オレも困ってるんだ。助けるって思って、一回だけ」
「訳わかんないのよ。どうして、それが助けることになるの」
「…松下さん、怒らせると…、恐いんだよ」
「そんな人とどうして会わなきゃいけないの」
「だから、一回だけ。そう、ボランティア。ボランティアだと思って、さ」
「いやよ。訳わかんないのよ。そんな人」
「頼むよ」
剛の手はぎりぎりと美加の腕を締めつけていた。美加が頷かないかぎり離すつもりはないようだった。誰か来て欲しいと思ったが、人通りはなかった。車も通らない。近くの家の窓は明るく灯っている。しかし、人の気配は感じられない。このまま言いなりにならざるを得ないのだろうかと思っていると、剛は一層強い語気で言った。
「一回だけ。一回だけでいいから、付き合ってやってよ」
締めつける腕の痛みとその声に圧倒されて頷きそうになった。しかし、辛うじて首を振ることができた。
「頼むよ、なぁ」
剛は美加の腕を捩じ上げるように持ち上げた。痛みが美加の口を塞いだ。何も言えないまま辛うじて首を振った。
「こんなに、頼んでるのにダメなのかよぉ」
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