八章 2話

 そして、転校先の学校では、私は今と同様な、ずっと仮面を被り続けた完璧超人としてふるまった。


 誰に対しても敬語を使い、全ての人と少し距離を開け、適切な距離感で関わり続ける。

 そうすると、私は誰からも嫌われることが無くなった。


 告白される数は減らなかった。

 けど、そんなことがあっても、私の周りには常にたくさんの人がいた。


 確かに、初めは辛いと感じたこともあった。


 どうして自分を押し殺して生活しないといけないのか、と。


 ただ、唯一の救いは、家では両親が助けてくれたことだった。


 母は花嫁修業だと言って、料理のどの家事全般を叩きこんでくれた。

 多分、辛い思いを少しでも忘れられるようにしてくれたんだと思う。


 父は私のわがままを聞いて、わざわざ遠くに転勤してくれた。

 私を同じ中学の人と会わないようにするために。


 だから、私は何とかこの生活を続けることができた。


 半年もする頃には、それが素の性格へと変わっていった。


 周りにはたくさんのお友達。

 週に一度の告白。


 そんな日常が、私には待っていた。


 心の底からお話をできる人はいなかったが、それでも学校は楽しかった。


 でも、結局『恋』は分からなかった。


 どれだけ告白されても、どれだけ多くの人が周りにいても、私にはすべてを掛けられる『恋』を知ることはできなかった。


 そうして私は中学を卒業し、高校へと進学した。

 女子高に行くことも考えたが、『恋』を知りたい気持ちがどこかにあったのだろう。

 最終的には共学へと進学した。


 ただ、何となくわかってはいた。

 多分、高校になっても、私は『恋』を知ることができないのだろうと。


 そして、転機は私の知らないうちに訪れた。


 入学式の日、首席のスピーチを読んだ彼。

 転校後、ずっと学年一位だった私は、久しぶりに誰かにテストで負けた。


 それから、私は無意識のうちに少し彼を目で追うようになっていた。


 休み時間は常に片手に参考書を持っていて、いつも話しかけているのは同じクラスの男の子。

 ただ、彼は一人でいるわけではなかった。


 学校の行事の時は、クラスの人たちと楽しそうに取り組んでいたし、コミュニケーションもとれていた。


 先生からの信頼も厚く、授業中はよく生徒に勉強を教えていた。


 私がようやく手に入れたものを、彼は既に持っていた。


 厚い人望、高い学力、そして共に笑い合える仲間。


 そして私は思った。

 いいな、と。


 彼のことが羨ましかった。

 私と同じような境遇にありながら、そこに自分のままい続けられる彼が。


 そんなとき、ふと女の子二人の会話が聞こえた。


「青凪君、また告白されたんだって」

「やっぱりモテるよね、青凪君」

「あんたもそろそろ告白しないの?」

「わ、私はいいよ……」

「そっか。あんたがそれならいいけどね」


 そっか、彼ってモテるんだ。


 私は彼女たちの会話を聞いて、彼がモテていると言うことを初めて知った。


 それと同時に、感じたことのない思いが芽生えた。


「イヤだな……」


 思わず口から出た言葉に、私は驚いた。


 彼がいろんな女の子から好かれていると知って、私は嫌だと感じたのだ。

 何故だか分からないでど、私はそう感じた。


 ふと教室の方を見ると、そこには彼とそのお友達がいた。


 二人は楽しそうに話していた。


━ドクンッ


 私の心臓が大きく脈を打つ。


━ドクンッ


 今まで感じたことのない、この気持ち。


━ドクンッ


 一つ脈打つ度に、鼓動が早くなる。


 そして分かった。

 私は初めて知ることができた。



 あぁ、これが『恋』なんだ、と。

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