七章 5
そして、あっという間に授業が終わり、放課後になった。
俺はさっさと鞄に荷物を詰め込み、足早に教室を後にした。
俺は靴を履き替え、今日も一人で歩く。
そして、俺は少し歩いて、立ち止まった。
「ついつい来てしまった……」
そう、結局俺は、どうするか迷った結果、今は体育館裏から少し離れた場所にいた。
理由は勿論、颯太に吹き込まれたことを確認しに来たためだ。
俺は見つからないように身を潜めて、二人の到着を待った。
それから少しして、先輩が先に到着し、そのすぐ後に姫花が到着した。
俺はその様子をしっかりと見るために、少し近づいた。
「今日は来てくれてありがとう」
「いえ」
姫花は笑うことなく、淡々と答えた。
その態度は、決してテキトウではないが、これから行われることに対しての返事は明白だった。
「それで、今日来てもらった訳なんだけど、俺と付き合ってくれないかなって思ってね」
「はぁ」
「どうかな?俺、そんなに悪い男じゃないと思うし」
無関心に対応する姫花に、先輩はぐいぐいと距離を詰めて食い下がる。
それと合わせて姫花も一歩ずつ下がった。
「すみませんが、私はあなたとお付き合いすることはできません」
「そっか。なら友達からでもどうだ?」
姫花はあっさりと断ったが、それでも先輩は食い下がる。
そんな先輩に対して、姫花は慣れた態度で丁寧に言葉を返す。
「いえ、ごめんなさい。あまり知らない人とそういう関係になるのは抵抗がありまして」
「そう言わずにさ。友達になってから知っていけばいいじゃん」
そう言って、姫花が断っているのに、しつこく食い下がる先輩。
俺は、そんな光景を見て少し苛立ちを覚えた。
嫌がっている女の子を相手にして、しつこく言い寄るのはマナー違反だと思うし、ましてや姫花にそんなことをするのはもってのほかだ。
俺は何か言ってやろうと出ていこうとしてハッとした。
「決めるのは、姫花だ……」
ここで俺は思い出した。
俺と姫花は、ただのクラスメイトという関係なのだ。
そして、それは俺がもたらした結果なのだ。
元々告白を頻繁にされていた姫花が、突然謎の男と付き合い始め、一度は儚く散ってしまった思い。
しかし、今現在、彼女はフリーで、思いを伝えることができる。
ましてや今まで隠してきた思いだ。
余計に強くなってしまうのも無理はない。
これは姫花への先輩のアプローチで、それにどう対応するのも姫花の判断。
俺が介入する余地なんて一切ないのだ。
「何感情的になってるんだよ俺。ほんと、いつもの俺はどこへ行ったんだ……」
俺はそう呟き何とかその場にとどまった。
そして、俺は校舎の壁に背をもたれかけ、ただボーっと空を見上げた。
冬の空というのは、何とも薄い青で、どこか寂しい印象を受ける。
雲はまばらで、天気は晴れ。
しかし気温は一桁で、ズボン越しに感じる土は痛いほど冷たかった。
俺がそんな風にしている間にも、二人の会話は続いている。
「私は興味のない方とはお友達にもなれません。ですから諦めてください」
「興味ない……か。分かったよ、よっぽどあいつが良かったんだな」
「分かっていただけたのなら、それで満足です」
姫花はそう答えると、踵を返して帰っていった。
俺は、最後の方は何を話しているのか分からなかったが、二人の足跡が別々に聞こえたことから、先輩の諦めがついたのだろうと思った。
俺はその様子を見て、緊張が解けたようにホッと息を吐いた。
そして、その気が抜けた瞬間に、声をかけてきたやつがいた。
「お前、今安心しただろ」
「ッ……!?」
俺は驚いて声を出しそうになった。
ゆっくりと顔を上げ、前を見ると、そこには俺を覗き込むようにして立っている颯太がいた。
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