七章 4話

 あれから一週間程が経った。


 俺と姫花が別れたという噂はすぐに広まり、そして今では事実して広まっていた。


 姫花は質問攻めに遭い、すごく大変そうだったが、その時の俺には何もすることができなかった。


 俺はと言うと、誰もその話に触れようとしなかったため、穏やかな日常が繰り広げられていた。


 強いて言うなら、颯太に何故別れたのかと問われたため、こいつならいいかと思って理由を話したが、それ以外のやつには何も聞かれず、ただただ三か月前の日常へと戻っただけだった。


「よう、冬治。昼飯食おうぜ」


 そんなことを考えていると、今日も一緒に弁当を食べようと言って、昼休みに颯太が声をかけてきた。


「あぁ。分かった」


 俺はそう坦々と返して弁当を広げる。


 そんな風に昼ご飯を食べ始めると、颯太は話しかかてきた。


「そういやさ、冬治」

「なんだ?」

「今日の放課後、水野さん告白されるらしいぞ」

「そうかよ」


 俺は一瞬びくっとしたが、それは表に出さずに、平然と返した。


 驚いた理由は、久しぶりに姫花の名前が颯太の口から飛び出したからだ。


 俺の返事を聞いた颯太は、俺の態度なんて無視して話を続けた。


「みーちゃんが言うには、相手は三年の先輩で、学年では陰でそこそこモテるタイプで、フラれて傷心中の今が、一番可能性があるとか言っているらしいぞ」

「それは考えが甘いと思うけど、それがどうしたんだよ」


 俺は少しツッコミを入れてから、適当に流した。


 一つ説明すると、俺たちが別れたという噂は、俺が姫花をフって終わったことになっている。

 だからこそ、みんな俺と話すときはその話題を出さなかった。


「いや、良いのかよと思ってな」


 俺の返事に、颯太は少し何か含みのある言い方をした。


 その言い方が、少し俺の心をゆすってしまう。

 やっぱり、どうしてもまだ割り切れていない部分が残っているのだろう。


 だから、俺は完全にその含みを断ち切ることにした。


「いいんだよ。もう俺の恋人ではないんだから。それに、お前には前にも話しただろ?」

「そうだけどよ。ほんとにいいのかと思ってな」

「何が言いたいんだ?」

「いや、これは俺が言うことじゃないな。悪い」


 そう言うと、颯太は何か一人で納得をした。


 俺は全く意味が分からなかったが、とりあえず納得してくれたのでもういいかと思い、昼食を再開した。


「放課後、体育館裏で告白するらしいぞ」

「だからな……」


 颯太は最後にそれだけ付け加えると、食べ終えた弁当箱をもって席を立った。


 俺が念のためもう一度訂正を加えようとしたのに、颯太はそれを聞こうともしなかった。


「悪いが、俺は今日ちょっとみーちゃんと話があるから」

「あぁ、分かった」


 俺は颯太の考えが読めなかったが、とりあえず返事をした。


 その後、俺は弁当を食べながらあいつの言葉の真意を探った。


「俺にそんなこと言われたって、どうすることもできないだろ」


 俺はそう言って、溜息をついた。


 大体、これは仕方の無い事なんだ。

 姫花を振ってしまったことは心苦しいし、正しかったのかとも思うこともある。


 しかしだからこそ、そんな考えを持つのは上から目線過ぎて、相手を見下しているようで余計に失礼なのだ。


 だから、俺はもう姫花のことは考えないようにしていたのだ。


「ほとぼりが冷めれば、友達にでもなればいいな」


 そう、ほとぼりが冷めればでいいのだ。


 今はまだ、三か月前以前と変わらない関係でもいい。


 ただ、少し経って、姫花の気持ちも薄れてきて、周りも俺たちが付き合っていたことを過去のことだと思い始めてくれた頃に、また一緒に話せばいいのだ。


 『恋』が分からないんだから、それしかないんだ。


 俺はそうやって心の中で呟き、窓の外を眺めてそっと溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る