七章 2話

 放課後になった。

 俺は、帰宅の準備をすると、サッサと一人で教室を出た。


 結局、今日は一度も姫花と話すことは無かった。


 俺が避けていたのもあるが、俺と姫花との間には、少し壁のような物を感じていた。


 恐らく、姫花も接し方に困っているのだろう。


「さて、どうした物か……」


 校門を出て少しした後、俺はそんなことを呟いた。



 家に帰ると、今日の復習もせずにベッドに寝転がった。

 そして、再びあのお題について考える。


「俺は姫花のことをどう思ってるんだ?」


 そうやって自問自答をした。


 多分、俺は姫花と仲良くしたいとは思っている。

 それは間違いじゃない。


 放課後一緒に下校したり、休日たまに遊びに行ったり。


 でも、それが『恋』だとは思わない。


 なぜなら俺はそれを何と言うか知っているからだ。


「友達になりたいんだな、俺」


 そう、友達だ。

 颯太や春咲なんかがいい例だ。


 たまに遊んで、学校で話して、それでたまに一緒に帰る。

 そんな何でもない日常を過ごすしたいと願うのは、友達になりたいからだ。


 つまりは、これもまた、一種の青春を望んでいると言うことだ。


 そう思うと、俺の考えはすごくすっきりとしてきた。


 好きではないけど、これまでの時間を悪いものだったとは決して思わなかった。

 だから、それだけが気がかりだったが、気が合う友達のようなものだと考えると、すごくしっくりとくる。


 同じ青春というくくりだからこそ、ややこしくなってしまっていたのだ。


 しかし、そんなときふと姫花が告白してきた時のことを思い出した。


『私はあなたに『恋』を教えます。必ず、私のことを好きにさせて見せます。なので、三か月だけ猶予をくれませんか?』


 俺が告白を断ろうとしたときに、姫花が出した提案だ。


 俺はどうしてだったか覚えていないが、何となくこの人ならもしかしたら俺に何かを与えてくれるかもしれない。

 そう思って承諾した。


 それを思い出すと、そこからはこの三か月間のことが頭によぎり、そして一つの大切なことを思い出した。


「姫花は、俺のことを本気で好きでいてくれたんだよな……」


 俺は今まで自分の気持ちと向き合うことだけを考えていた。

 姫花をどう思っているのか、姫花とどうなりたいと思っているのか。


 しかし、相手の気持ちを考えないのは少しばかり酷いのではないかと思う。


 相手は俺のことを真剣に好きでいてくれたのに、「ごめん付き合えないけどこの関係が心地よかったから友達になってください」なんて言えば、相手はどんな気持ちになるだろうか。


「俺、ここまで最低だったのか……」


 俺は自分の失態に気が付き、正直幻滅した。


 いつの間にか、俺は相手のことを中心に考える思考がかけてしまっていた。

 なぜか自分を中心に考えてしまっていた。


「少し頭を冷やすか」


 俺はそう言って洗面所へと行き、顔を洗った。


 ふと前を見ると、鏡にはかなり複雑な顔をした俺が映っていた。


「なんて顔してんだよ、俺……」


 俺はそんな顔をしている自分を鼻で笑った。


 そして、顔を洗ったことで少し気持ちが落ち着いたことで、さっきよりもしっかりと物事を考えることができるようになった。


 俺はベッドに腰かけ、もう一度整理する。


 まず、俺は姫花のことを好きではない。

 しかしこの三か月間は楽しかったので、友達になりたいとは思う。


 次に姫花は俺のことを好きでいてくれて、それは最初から最後まで変わっていない。

 つまり、俺と本当の恋人になりたいと思ってくれている。


 でも、俺は姫花のことを好きではないので、それをかなえてあげることはできない。


 『恋』が分からない以上、これはどうすることもできない。


 これは憶測での話だが、もし俺が他の奴らと同様に『恋』を理解することができていれば、この三か月で間違いなく姫花のことを好きになっていたのだろう。

 それだけ彼女は魅力的だし、実際俺もそう感じた。


 でも俺は『恋』を理解できなかった。


 だから、そんな現実は来なかった。


「やっぱり、俺には分からなかったな」


 俺はそう結論付けた。


 答えは決まった。

 後は、その日を待つのみだ。


 俺はそう考えると、一気に緊張が解けたのか、急に意識が飛び、眠りについてしまった。

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