六章 9話
ショッピングモールを後にした俺たちは、電車に乗り、最寄りの駅へと向かった。
そして、俺はいつも通り姫花を送り届けるために、一緒に姫花の家へと歩いていた。
「今日は楽しかったな」
「はい。ですが、正直私のわがままに付き合わせてしまって、迷惑ではなかったでしょうか?」
「全然そんなことないよ。むしろ色々な姫花を見れたような気がして楽しかったし」
「本当ですか?それなら良かったです」
俺たちはそう言うとお互いに笑顔を向けた。
そんな顔を見て、姫花も安心したのか、顔に優しさが戻った。
「しかし時間が経つのは早いよな。もう一月だなんてな」
「そう、ですね……」
俺がそう言うと、姫花は少しつまり気味に返事をした。
俺はそれが少し気になって、姫花の方に顔を向けて尋ねた。
「どうかしたのか?」
「いえ。なんでもありません。気にしないでください」
「そっか」
俺は何もないと言われては食い下がることができないので、素直に受け入れた。
気にしないでと言った後には、姫花はもういつも通りの表情に戻っていたので、やっぱり本当に何でもなかったのかもしれないなと俺は思った。
だから、俺はあまり気にしすぎないようにした。
そうこうしているうちに、俺たちは姫花の家の前までたどり着いた。
「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ楽しかったし」
「荷物も持っていただいたので」
「いいよ、全然」
俺はそう言うと、姫花に荷物を手渡した。
「それじゃ、また明日」
「はい。それでは」
そう言って玄関の扉のドアに手をかけた姫花が、ふと振り返った。
「あの、冬治君……」
そして、いつになく真剣な口調で、それでいてすごく悲しそうに、俯きながらポツリとつぶやいた。
「そろそろ、ですね……」
「あっ……」
そう言われて、俺は気が付いた。
そうだった。
俺たちは付き合っていたんだ。
姫花が俺に『恋』を教えるという条件で。
完全に忘れていた。
俺たちの状況を。
そして期限の三か月が……あと二週間弱で訪れる。
だから姫花はさっき俺がもう一月だと言って少し浮かない表情をしたんだ。
どうして気が付かなかったのだろうか。
「それでは、また明日」
俺がそんなことを考えていると、姫花がそう声をかけてドアを開けた。
「あ、うん。また明日」
少し混乱状態になっていた俺は、そう返事をするので精一杯だった。
俺の返事を聞いた姫花は、今度こそ家の中へと消えていった。
俺はそんな姫花の様子をただただ漠然と見送ることしかできなかった。
そして、姫花が家に入ってから数秒して、ようやく意識が現世に戻って来た俺は、頭を振って脳を落ち着かせた。
「そろそろ……か」
俺はそう呟いて、止まっていた足を動かした。
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