六章 8話

クレーンゲームをした後は、音ゲーに挑戦してみたり、シューティングゲームをしたり、レースゲームをしたりして、ゲームセンターを満喫した。


「楽しかったですね」

「そうだな。家にゲーム類の娯楽が何もないから、たまにはこういったモノをするのも楽しいな」

「私も、初めての体験でしたので、とても楽しかったです!」


 レースゲームをした後、そろそろ帰ろうかとゲームセンターを出るために店内を歩きながらそんな話をしていた。


 そして、姫花が道中に少し気になるモノを見つけて立ち止まった。


「どうしたんだ?」

「いえ。その、これはどういったモノなのでしょうか?」

「あぁ、それはプリクラだな」

「これがそうなんですか!」


 姫花が立ち止まったのは、今でも人気の高いプリクラの機械の前だった。


 プリクラは俺もしたことが無かったので、無意識のうちに候補から外してしまっていたのだ。


 だから、俺はそんな姫花に、しっかりと提案することにした。


「やるか?」

「いいんですか?」

「まぁ、俺もしたことないし、ちょっと興味あるかも」

「では、是非お願いします」

「おう」


 そう言って、俺たちは暖簾の奥へと進んだ。


 中はあまり広い空間ではなく、写真を撮るためのカメラのような物がいくつかあった。


 俺たちはタッチパネルを分からないなりに操作して、始めることにした。


「あ、あの」

「どうした?」

「モード選択というものがありまして、超モリモリモードと、恋人モードの二種類あるんですけど、どうしましょう……」


 操作をしてくれていた姫花が、振り返りながらそう言った。


 俺はタッチパネルを覗き込んで、実際にこの目で確認してから、意見を述べた。


「そうだな、恋人モードでいいんじゃないか?」

「そう、ですよね!」


 少しぎこちなさそうに言いながら、姫花は恋人モードを選択した。


 すると、ほどなくしてアナウンスが流れ始めた。


『それでは、今から言うポーズを、二人で協力しながらとってください』


「アナウンスに従いながら進めていく感じなんだな」

「そうみたいですね」


『まずは、二人でハートを作ってください』


「ハートってことは、こんな感じでいいのかな?」

「そうでしょうね、恐らく」


 そうして、俺たちはお互いの手で、一つのハートを作った。


 俺たちがポーズを取ったのを確認したかのように、すぐに写真が撮られた。


「おー。なかなか面白いな」

「そうですね」


『次は、』

『最後は、ハグをして、思い出をフィルムに残そう!』


「え、ハグ!?」

「ハグ……ですか」


 最後に、爆弾発言をしたアナウンス。

 俺たちは、そんな内容に戸惑いを隠しきれなかった。


 何より、そんなこと一度もしたことが無い。

 ようやく手を握るのも慣れてきた頃なのに、ハグはまた未知数なものだった。


「どうする?」

「や、やりましょう!」


 俺がそう尋ねると、姫花は食い気味にそう言った。


 俺はそんな姫花の気は九に押され、流れですることにした。


「それじゃぁ、3、2、1で行こう」

「はい」

「行くぞ。3、2、1」


 そんな掛け声と共に、俺たちは互いに抱き合う。


 初めてハグをした感想は、何とも言えない感情だった。


 互いの体がふれあい、少し恥ずかしさがあるのだが、それなのに嫌じゃないというか、どこか落ち着いてしまうという感じだった。


 俺たちはシャッター音が鳴ったことにも気づかず、固まってしまっていた。


 そんな空気を払ってくれたのは、プリクラのアナウンスだった。


『お疲れさまでした。タッチパネルにて、最後の仕上げをしてください。またのご利用お待ちしております』


「終わった、みたいだな」

「そうですね」


 俺たちはそっと体を離すと、タッチパネルの方へと移動した。


「デコレーションだって。するか?」

「いえ、私にはよくわかりませんので」

「俺もだ。よし、じゃぁこのまま印刷するぞ」

「はい、よろしくお願いします」


 そうして、俺たちは写真を現像し、半分に分けた。


 どの写真も良く取れていて、思い出になるなと思った。

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