六章 7話
結局、喫茶店に一時間程滞在してしまった俺たちは、そろそろ店を出ることにした。
「パフェ、美味しかったです!」
店を出てすぐ、姫花はそんなことを口にした。
どうやらかなり気に入ったらしく、見て分かるほどに喜びのオーラを放っていた。
「それは良かったな」
「はい。是非また来たいです!」
「ま、しばらくしたらまた来ような」
「はい!」
そう返事をした姫花は、いつにもまして眩しい笑顔をしていた。
これぞ、純粋無垢な子どもの笑顔なのだろうと思った。
俺はそんな姫花に内心驚きつつも、楽しそうならそれでいいかという感情の方が勝ってしまい、甘やかしたくなってしまう。
この時俺は、世の中の親御さんたちが、どうして子どもを可愛いと思うのか、少しだけ垣間見れたきがした。
「次はどこに行こうか」
「そうですね……私、実はもう一つだけ行きたい場所がありまして……」
「ん?そうだったのか?」
少し言いにくそうにしながら、そんなことを口にした姫花。
俺はそんな姫花に優しく、続きを促した。
「えっとですね、その……ゲームセンターと言う所に行きたいんです……」
「あーなるほど……」
姫花の言葉を聞いて、俺はなぜか心底納得がいった。
姫花にとって、ゲームセンターなんて、未知の世界であろうことは安易に想像できる。
だからこそ、興味があったのだろうなとも思った。
俺はそれを理解すると、すぐに了承の返事をした。
「うん、いいよ。行こうぜ」
「ありがとうございます!」
姫花は顔を上げてそう返事をすると、せかすように俺の手を引っ張りながら、ゲームセンターへと向かった。
「ここがゲームセンターなんですね……」
「ま、これぞ王道のゲームセンターだな」
ゲームセンターに着くと、姫花は目を輝かせながら辺りを見回していた。
まぁ、俺も初めて友達に連れてきてもらった時は、姫花みたいな感じだったと思う。
それぐらい、ゲームセンターというのは、非日常なのだ。
薄暗がりの店内に、七色の眩しく光るゲームの光。
様々な機械からの音や、人々のはしゃぐ声が、騒音なのに、嫌な気持ちにならないと言う不思議な感覚を与えてくれる。
一歩店内に入れば、それはもう
そんな感覚を、姫花は多分覚えて、それに興奮をしているのだろうと目に見えて分かった。
現に、早く何かを指定というオーラが漏れていた。
だから俺は、そんな姫花の期待に応えてあげることにした。
「何がしたい?」
「何がしたいのでしょうか……」
「まぁそうだよな。始めてきたんだから何がしたいかなんて分からないか」
「はい…お誘いしたのは私ですのに、すみません…」
「いいよ、別に。俺も初めて来たときは全部友達に教えて貰ったし」
「そうなんですか?」
「あぁ」
俺がそう言うと、姫花は表情を明るいものへと徐々に戻していった。
そんな様子を見てから、俺は色々な物に連れて行ってあげることにした。
「よし、じゃぁまずは定番中の定番、クレーンゲームからだ」
「クレーンゲームですか!それは楽しみです」
そうして、俺たちはクレーンゲームをしに行った。
「あ、これ可愛いですね」
「ん?」
クレーンゲームのエリアへと来てすぐに、姫花がそんなことを言って一つの台の前で立ち止まった。
俺はその台の前まで来ると、中身をのぞいた。
それは、至って普通のクマのぬいぐるみで、それでもそれを女の子が欲しいと言うのは何もおかしい事ではなかった。
「やってみるか?」
「……はい、やってみたいです!」
俺が促すと、姫花は目を輝かせながら頷いた。
姫花は硬貨を挿入すると、ボタンを押しながら頑張ってアームを景品のところまで操作していた。
そして、上手いこと景品を包み込む形でアームを落ちてき、ぬいぐるみをつかんだ。
「やりました!」
「それがな……」
初めての挑戦で無事成功して喜んでいた姫花だが、直後、それがぬか喜びであったことを知る。
「あ……」
やったことのある人なら分かると思うが、あれは簡単につかめても、持ち上げて移動することは困難なのだ。
つまりは、そう言うことだ。
つかんだと思ったぬいぐるみは、空しくもスッとアームの隙間を潜り抜けて落ちてしまったのだ。
「とれたと思ったんですけどね……」
「ま、そんなもんだよ。これはだな……」
少し悲しそうな表情をする姫花を慰めながら、俺は自分の金を入れると、ささっとアームを動かして、ある場所を狙った。
「失敗しましたか?」
「いや、狙い通りだよ」
俺の下ろしたアームが、景品のかなり横にそれていたので、姫花はそれを心配していた。
しかし、それは俺の狙い通りで、閉じたアームが綺麗にぬいぐるみのタグの紐に引っかかったのだ。
「あ、凄い……」
その光景に、姫花が思わずそんな声を漏らしていた。
結局、ぬいぐるみはそのまま受け取り口に落ちてきた。
「すごいですね、冬治君。よくされていたのですか?」
「いや、中学の時の友達にクレーンゲームがスゲー上手いやつがいてさ、一緒に行ったときにレクチャーしてもらって、コツをつかんだって感じかな」
「そうなんですね!」
俺が少し過去を思い出しながらそんなことを言うと、姫花は純粋な尊敬のまなざしで俺を見つめてきた。
いや、そんな目で見られるようなことではないんだけどな…。
俺はそんなことを心の中で思って、取り出し口から手に取ったぬいぐるみを、姫花に渡した。
「はい、どうぞ」
「いいんですか?」
俺が手渡すと、姫花は少し申し訳なさそうに、そして嬉しそうにぬいぐるみを手に取った。
「まぁ、元々姫花に渡すためにとった訳だしな」
「ありがとうございます、冬治君!」
「おう」
そう言って、ぬいぐるみを抱き抱えながら微笑んだ姫花の顔は、なんとも無邪気で眩しくて、俺には直視できないほどだった。
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