六章 5話

 その後行った店は、有名な安いブランドの店や、少し変わったジーンズの店、他には上着専門店なども行った。


 どれも姫花らしいと言えばらしいのだが、らしくないと言えばらしくなかった。


 実際、最初の店以外では姫花は一着も購入はしなかった。

 試着はしていたが、どれもいまいちしっくりこなかった様子だった。


「次で一応最後か」

「はい」


 そう返事をして姫花は、どこか楽しそうな顔をしていた。

 それを見ていると、俺も来て良かったと思った。


 女の子はショッピングが好きだとよく聞くが、実際に姫花と一緒にいると、それが本当なんだろうなと思えた。


 姫花には冬休みに予定を作ってもらった恩があるので、できるだけ返せればと思っていたので、今日は思う存分楽しんでほしかった。


 そして、少し歩くとすぐに最後の目的の店へと到着した。


「ここ……か?」

「はい、ここです」


 俺はその店を見た瞬間、驚きを隠せなかった。


 理由は簡単で、この店に置いてある服のほとんど全てが、少し姫花のイメージと離れていたからだ。


 しかし、姫花はそんなことは気にせず、いつも通り入っていって、服を選んでいた。


 だから俺も、変に気にせずに店に入り、姫花について行くことにした。


「私がいつも着ている服と、かけ離れているって思いましたか?」

「えっ」


 俺が姫花に追いつくと、姫花は服を選びながらそう言った。


「いや、イメージもそうだけど、それよりも姫花が露出度のそれなりにある服を着ていると言うのがあまり想像できなくてだな」

「ですよね。私もです」

「え?」


 俺は思わず変な声が出た。


 姫花は、自分でも分からないけどなぜか普段と違う服を見たいと思ったということでいいのだろうか。

 しかし、それなら本当に姫花らしくない。


 何でも完璧にこなす、そんな姫花が、計画性もなく何となくで行動をするのか、と。

 でも、かといって計画的に選んだのなら、その意図が全く分からなかった。


 俺がそんなことを考えていると、姫花は少し苦笑いをしながら話し始めた。


「私も普段から肌が見えるような服装は自分の中でどこか遠ざけていまし。それは人からのイメージのためではなく、自分の意志でですけど」

「そうなんだな。まぁ俺もそれで自然とそう言う服装が姫花っぽいとは思ってたけど」

「はい。ですから私もそれが一番いいと思っていました」


 そう言って、姫花は選んでいた服を一つ決めて、それを両手で持ちながら続けた。


「だけど、それは食わず嫌いなんじゃないかと思いまして、それで今回、冬治君に見ていただこうかなと思いまして。さすがに外で人に見せるのはまだ恥ずかしいので」

「なるほど……」


 俺はその話を聞いて納得した。


 確かに、姫花は基本的に露出することに抵抗があるのだろうと思っていた。

 しかし、それは何かあったからというきっかけがあるわけではなく、元々そういう認識であったのだろう。


 それを今回、親しい俺にだけ見てもらうことで、どのようなものかと確認をしてみたかったのだろう。


「分かった。それじゃぁ待ってるわ」

「はい。ありがとうございます」


 そうして、姫花はさっき選んだ服をもって更衣室へと向かった。


 俺はそんな姫花を待ちながら、少しだけ考え事をした。


 姫花は、少しずつでも変わろうとしているのだ。

 いろんな人の期待を背負いながら生きていくという辛さは、たぶんなれるものではない。


 その中でも、少しでも周りの理想という縄を、自力でほどこうとしているのだ。


 それは簡単なことじゃないだろうし、きっとかなり葛藤があったのだろう。


 俺は、自分にできることなら、できる限り姫花の手助けをしたい。

 そう無意識のうちに思っていた。


 それから少しして、姫花が試着室のカーテンを開けた。


「どう、でしょうか」


 姫花はいつも以上に恥ずかしそうにそう言った。


 姫花の服装は、生地が少し分厚めの白のタイトスカートをはき、上は薄い青色のスウェットを着ていた。


 何と言っても目を引くのはミニスカートだろう。


 姫花はいつも履いていた黒のタイツを履いておらず、白く透明感のある太ももが露出していた。


 そして、それが恥ずかしいのか、少しソワソワしているところが、完全に男をとりこにするだろうと思われた。


 結論を言うと、破壊力が抜群過ぎるのだ。

 こんな格好で外を歩けば、いろんな人の注目も浴びるし、さすがにまぶしすぎる。


「いいとは思う。ただ」

「ただ……?」

「それで外を歩くのはやめた方がいいな、うん。せめてタイツを履けば綺麗に収まるんじゃないかな」

「やっぱりそうですよね。私も少しこの格好では歩けそうになかったです。やっぱり恥ずかしいですね」

「そうだな」


 姫花はそう言うと、カーテンを閉めて着替えた。


 ほんと、世の中の女性たちは本当にすごいんだなと改めて思い知らされた。


 ただ、意外なことにも結局あの服は購入していた。

 恐らくデザインが気に入ったのだろう。


 俺は少し赤くなっている姫花の横顔を見ながら、そっと笑みをこぼした。

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