六章 4話

「いやー面白かったな、映画」

「ですね。冬治君の家で見た前作に負けず劣らずでしたね」


 俺たちは映画を見終えると、昼ご飯を食べるためにファミレスへと来て今日見た映画について語り合っていた。


「映画館で上映中にあれだけの笑いが起こる作品なんて、そうそうないよな。俺も笑っちゃったし」

「私も笑っちゃいました」

「だよな。やっぱりそれがこの作品の良さなんだろうな」


 俺はもう一度思い出して思わず笑いそうになるのをぐっとこらえて、これからのことについての確認を取った。


「じゃぁさ、これからはまず服を買いに行って、それから本屋で参考書を購入。その後、三時頃に喫茶店でパフェを食べて、後は良い時間になるまで館内をブラブラって感じで大丈夫そうか?」

「はい、問題ありません」

「よし、じゃぁそろそろ行くか」


 俺たちは確認を終えると、あまり長いするのも良くないと思い、ファミレスを後にすることにした。


 ファミレスを出た俺たちは、姫花が事前に調べて目星をつけていた服屋を中心に五店舗程回ることにした。


「まずはここか」

「はい。ここには可愛らしい服がたくさんありますので」


 そう言って優しく笑いかけてくれる姫花。


 彼女の言う通り、確かに可愛いをテーマにしたんだろうなと思われる服が、多い店だなと思った。


 なぜこの店を選んだのか。

 それは恐らく、露出度の少ないタイプの服が多くあるからだろうとすぐに分かった。


 だからこそ、姫花らしいなと思った。


 入ってから十分程度たつと、姫花が俺に声をかけてきた。


「すみません、冬治君」

「ん?どうしたんだ?」

「少し悩ましいものがありまして、試着をするので見てもらってもいいでしょうか?」

「あぁ、分かった。どちらが好みか言えばいいのか?」

「そうですね。そのような感じで大丈夫です」


 姫花はそう言うと、店員に一言声をかけてから、試着室へと入った。


 俺はあまり近くにいすぎるのもどうかと思ったので、姫花の入った試着室の前にある服を見ながら待つことにした。


「お待たせしました、冬治君」


 ほんの数分待つと、姫花は着替え終わり、試着室のカーテンを開けた。


 俺はその音と声を聞いて、振り返って姫花を見た。


「どうでしょうか……」


 俺が振り返ったのを確認して、姫花はそう尋ねてきた。


 姫花の服装は、ひらひらとしたタイプの白を基調としたロングスカートに、トップスはホワイトのタートルネックだった。


 第一印象は、姫花っぽいなという感じで、露出度が少なく清楚であるが、それでいて美しさは兼ね備えている。

 まさに高嶺の花と言った感じだった。


 特に上下ホワイトコーデというのが、優しさを醸し出していて、すべてを包み込むようなイメージを与えていた。


「うん、いいじゃん。俺は好きだな」

「ありがとうございます。では、もう片方も試着させていただきますね」


 俺が感想を言うと、姫花はもう片方の服に着替えた。


 今度はそこまで時間がかからず、すぐにカーテンが開けられた。


「お待たせしました。どうでしょうか?」

「なるほど。上の組み合わせの話だったんだな」


 カーテンの先で恥ずかしそうに腕を後ろで組んでいる姫花は、先ほどとまったく同じロングスカートをはいていて、先ほどと変わっていたのはトップスが黒のスウェットになっていたことだ。


「春って感じだな」

「なるほど。そうですね、確かに少し春のコーデかもしれませんね」


 俺はまず初めに思ったことを率直に話した。


 先ほどの白で合わせた方は、冬をイメージさせたし、逆に今回の黒と白の対になったコーデは、どちらかと言うと春先のイメージだった。


「どちらの方が良かったでしょうか?」

「そうだな……」


 俺は少し考えた。


 正直どちらを選んでも間違いなく姫花には合うと思う。それは服がいいのではなく、素材が良いのだ。

 姫花という素材が。


 だからこそ、ここは色々悩むのではなく、俺の直感で意見を言うことにした。


「俺は白の方がいいかな」

「なるほど、分かりました。では、白の方を買わせていただきます」

「分かった」


 こうして俺が選んだ方を、姫花が着替えてから買いに行った。


 どうして俺が白の方が良いと思ったかと言うと、何となく姫花には雪が似合うなと思ったからだった。


 我ながらいまいちピンとこない例えだけど、俺にはそう感じたから仕方がない。

 単純に俺が白の方が好きだったのかもしれないし。


 そんなことを考えていると、会計を済ませた姫花が店から出てきた。


「お待たせしました」

「よし。じゃ、次行こうか」


 俺はそう言うと、姫花の荷物を持って次へと向かった。

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