六章 3話

 約束の日の日曜日になった。


 俺はいつも通り予定よりに二十分程早く慧城駅にきていた。

 理由はもちろん姫花が集合時間の十五分前には絶対に来るからだ。


 前はもっと早かったが、俺が十五分ぐらいでいいと言うと、ちょうど十五分前に来るようになった。


「お待たせしました、冬治君」


 そんなことを考えていると、姫花が小走りでやって来た。


 俺はそんな姫花を見て、走らなくていいよと言った。


「別に約束の時間に遅れたわけじゃないんだから」

「いえ、相手を待たせてしまったのは事実ですので」

「確かにそうだけど……」


 どうも否定できない正論に、俺は認めるしかなかった。


 姫花の主張に押し負けた俺は、次からは俺も十五分前ちょうどに来ることを決意した。


 そんな決意は胸にしまい、さっそく俺たちは動き出すことにした。


「それじゃぁ行こうか」

「そうですね。電車も来てしまいますし」


 そうして、俺たちは一緒にホームへと向かった。



「いよいよですね」

「だな。楽しみで、ちょっとだけ寝不足になってるよ」

「分かります。私も昨日の夜は少し落ち着きませんでした」


 俺たちは電車に乗ると、小さめの声でそんな話をした。


 今日の姫花の服装は、まぁいつもと変わらず清楚な感じだった。


 黒のタイツに白を基調とした黒のチェックのプリーツスカートを上に吐き、トップスは濃い赤色のテレコロンTに白色のロングコートを合わせていると言うような感じだった。


 いかにも冬っぽさを感じる服装は、とても姫花らしさが出ていた。


 勿論かばんは方にかけているので、抜かりはない。


 俺が姫花の服装を見ていると、姫花は視線を感じたのか、少し恥ずかしそうにしていた。


「あの、どうかされましたか?」

「いや、相変わらず姫花らしい服装でいいなと思っただけだよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺が率直な感想を述べると、姫花は少し恥ずかしがりながらも、嬉しそうな表情をした。


「しかし、こうして映画を映画館に見に行くのなんて、何年ぶりかな……」

「私も、あまり行かないので久しぶりですね」

「なんか、見たい映画があっても、いざ映画館へ行こうと思うと、どうにも足が赴かないんだよな」

「わかります。どうしても後一歩が踏み出せないんですよね」


 これと言って趣味の無い俺たちは、映画館に行くなら勉強しようという考えが、どうしても真っ先に頭によぎってしまうのだ。


 こんなことを共感できる人はなかなかいないので、俺たちは少し熱くなってしまっていた。


「まぁでも、だからこそ余計に楽しみなのかもしれないな」

「ですね」


 俺たちはそう言って納得することにした。



 まもなくして、電車は目的地の最寄りの駅へと着いた。


 駅を降りてすぐに、目的のショッピングモールはあった。


 ショッピングモールは大きく分けて三つのブースに分かれており、食品関係のブース、衣服関係のブース、娯楽関係のブースとなっていた。


 そして、映画館がある娯楽関係のブースは駅から一番遠いところにあった。


「少し遠いな」

「そうですね。早く行きましょう」


 そう言うと、俺たちは館内マップを確認して、映画館の方向へと歩き出した。


「やっぱり思っていたよりも広いですね」

「そうだな、確かにイメージよりもかなり広いな」

「ですよね」


 俺たちは館内を歩きながら、そんなことを言った。


 マップで見ると、意外と小さくみえるのだが、実は一つ一つの店舗が大きく、そのためマップでは縮小されて小さく見えるのだ。


 そして、そんな広大な館内を十分ほど歩くと、何とか映画館に着いた。


「ここだな」

「やっぱり映画館もかなり大きいんですね」

「そうだな」


 姫花が言う通り、映画館のスクリーンの数が二十ほどあり、かなり大きめだと言うことが分かった。


「じゃ、早くチケットを買わないとな」

「そうですね」


 そうして、俺たちは券売機へと向かい、目当ての映画のチケットを購入した。

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