五章 5話

 晩ご飯も終わり、片付けをした俺たちは、さっき借りてきたビデオを見ることにした。


「じゃぁ流すけど、本当にコレで大丈夫?」

「はい。問題ありません」

「分かった。じゃぁ流すよ」


 俺は最後の確認を取って、ビデオを再生した。


 ジャンルはコメディー映画で、日本の物だ。


 原作は確か漫画で、高校生が主人公のものだった。


 俺のイメージでは、とにかくひっちゃかめっちゃかで、絶えることなく笑っていられる作品だった。


 俺はそんな内容も好きだったのだが、何よりも話の構成が綺麗で、すごく見やすい作品だなと毎回思うほどだった。


 不意に隣を見ると、姫花も面白そうにクスクスと笑っていた。


 ほんとに、笑い方にも品があるのはさすが姫花だと思った。


 映画もいよいよ終盤に差し掛かり、笑えるシーンもどんどんと増えてきた。

 俺は何度も見たはずなのに、それでも笑わずにはいられなかった。


 そして、ようやく終わったこれには、笑い過ぎで頬が痛くなっていて、俺も姫花も頬の筋肉を両手でほぐしていた。


「面白かったですね」

「そうだろ?俺も何回も見てるんだけど、やっぱり笑っちゃうよ」

「さすが冬治君のおすすめの映画ですね」

「ありがとう」


 そう言って、俺はふと思い出したことがあった。


「そう言えば、今度第二弾の映画が公開されるってニュースでやってたな」

「そうなんですか?」

「そう。たしか一月だったと思うんだけどな」


 俺が頭をたたきながら思い出す素振りをすると、姫花は少し食い気味で話し始めた。


「それなら、ぜひ一緒に見に行きませんか?」

「え?」


 俺は突然の提案に驚き、思わずまぬけな声を上げてしまった。


「冬治君が嫌でなければですが、一緒に見に行きたいなと思いまして」

「俺はいいよ。一人で行くのは少し寂しいからな。姫花が一緒に行ってくれるなら助かるよ」


 俺は状況を素早く飲み込み、肯定の返事をした。


 それを聞いて、姫花は安心したのか、口元が綻んだ。


「それじゃぁ、公開後の週末だな」

「はい。約束ですからね?」

「もちろんだよ」


 こうして俺たちは映画を見に行く約束をした。


 そうこうしているうちに、時刻は十一時を少し回ったところまで来ていた。


「あ、もうこんな時間になってたのか。よし、じゃぁそろそろそばを作るか」

「本当ですね。よろしくお願いします」

「おう」


 そう言って、俺はタッタとキッチンに向かい、手早く料理をした。


 数分でそばが茹で上がったので、さっと盛り付けをして俺は姫花の元へと向かった。


「ほい、完成」

「ありがとうございます、冬治君」


 俺が机にそばを置くと、姫花がぺこりとお辞儀をした。こう言う所にも育ちの良さというか、品の良さがにじみ出てるなと思う。


「じゃ、いただきます」

「いただきます」


 俺たちはそう言うと、そばに舌鼓を打った。


 あまりいいそばを使っているわけではなかったが、年末に食べる年越しそばというのと、人と一緒に食べるという相乗効果で、すごくおいしく感じた。


「やっぱり年越しはそばに限るな」

「そうですね。これを食べると一年の終わりを感じられますね」


 俺たちはこの一年の終わりという時間を味わいながら、そばを食べた。


 ほとんど会話をすることもなく、しかし二人でいることは感じながら食べ終えた。


「おいしかったです。ごちそうさまでした」

「いえいえ」


 俺はそう返すと、姫花と俺の食器を運び、さっと洗った。


 そして、年越しまで残りに十分程となったので、テレビをつけて雑談でもしながら待つことにした。


「そう言えば、冬治君はどうして一人暮らしを始めたんですか?」

「うちの家は何でかは知らないけど独り暮らしをすることはかなり前から言われてたからって感じかな」

「それはどうしてですか?」

「分からないけど、一人で生活することが大事みたいな?まぁ、この前姫花が言っていた花嫁修業のようなもので花婿修行できな感じだろうな。うちの母はお嫁さんに負担をかけないようにと口酸っぱく言ってから」

「なるほど……そのような点も同じでしたか」


 姫花は驚きの表情していた。


 俺も、よく考えてみると姫花と同じような境遇が多々あり、かなりの共通点があるなと思っていた。


「ほんと、知れば知るほど共通点が見つかるな」

「ですね」


 俺たちはなんとも言えないといった感じで笑い合った。


 そうこうしているうちに、時計は十一時五十五分を回っていた。


「お、そろそろ一年が終わるな」

「そうですね。あと少し経てば新年ですか。本当に一年というのは早いものですね」

「だな」


 俺たちは時の流れに感慨深いさを感じた。


 しかし、そんなことに入り浸っている場合ではなく、あっという間に一分前となっていた。


「いよいよだな」

「そうですね」


 一秒、また一秒と時が流れるのを感じながら、俺は姫花の方を向いて話しかけた。


「来年もいい年になるといいな」

「そうですね。でも、きっと大丈夫ですよ」

「どうして?」


 俺がそう聞くと、姫花は笑顔で答えた。


「何となく、です」


 姫花の予想外の回答に、俺は一瞬戸惑った。


 しかし、そんな時間はほんのわずかで、テレビからカウントダウンの声が聞こえてきた。

 だから、俺たちもそれに合わせてカウントダウンをする。


 そして、新年を迎えたと同時に、俺たちはお互いに向かい合った。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 俺がそう言うと、姫花も丁寧にお辞儀をしながら返してきた。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」


 そして、互いに新年のあいさつが終わると、スッと少し力を抜いた。


「改めて今年もよろしくな、姫花」

「はい、よろしくお願いします、冬治君」


 こうして年越しを済ませた俺たちは、少し雑談をした後、すぐに寝床に着いた。


 ベッドで寝るか布団で寝るかと聞いたが、姫花は布団で構わないと遠慮をしたので、俺は無理に食い下がらずベッドで寝た。


 意外なことにも、特に変な緊張はせず、すぐに眠りにつくことができた。

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