五章 4話

 家に着くと、さっそく鍋の準備をした。


 俺の部屋のキッチンはそこそこ広くて、二人で作業をしても窮屈じゃないので、俺たちは手分けをして野菜を切ったりした。


 そして、それから三十分も経たないうちに準備が終わり、俺たちは鍋をはさんで向かい合って座った。


「それでは、いただきましょうか」

「そうだな」


 そう言うと、俺たちは二人そろっていただきますをした。


 今日の鍋はあっさりとした魚介ベースの物で、海の幸を多めに入れた海鮮鍋のようなものだった。


「やっぱりおいしいですね」

「だな」


 俺たちは一口目にスープを飲み、そんな感想を言った。


 二人とも一口目がスープなのは、やはり味を確認する癖がついているからだろう。


「しかし、やっぱり姫花のチョイスは正解だったな」

「そうですね。ありがとうございます」


 どの鍋の素にしようかと悩んでいた時に、海鮮鍋にしませんか?と言ってくれたのは姫花だった。

 だから、今日のこの鍋はほとんどが姫花主体で考えられたものだった。


「俺、結構海鮮類好きだから、すごく好みの味だし」

「それは良かったです。私も海の幸が好きなので、よく家で作るので、好みの味だと言ってもらえてうれしいです」

「そっか、姫花がよく作る鍋だったんだな。てことは実質姫花の手料理だな」

「そうとも言えますね」


 そう言って微笑む姫花。


 俺はそんな姫花を横目に、次は白菜を口にした。


「うん。やっぱり味がしみ込んだ白菜は鍋の醍醐味だよな」

「分ります。鍋の美味しさを図る基準は、スープの味と白菜の味ですよね」

「そうなんだよな。美味い鍋はその二つを食べただけで間違いないってすぐに分かっちゃうんだよな」


 俺たちはまたしても意見が一致した。


「やっぱり趣味が料理の人間同士だと、話が通じて楽しいな」

「そうですよね。私の周りにいる方々は、あまり料理の話などはしていらっしゃらないので、私も冬治君という仲間がいてうれしいです」


 姫花が嬉しそうに笑いながらそう言ったので、俺も自然と口元が緩んでしまった。


 俺は、姫花には人を自然と笑顔にできる才能があるんだろうなと新しい彼女の一面を知れたような気がした。


「どうかしましたか?」


 俺がそんなことを考えていると、姫花が何かあったのかと少し心配した表情で声をかけてきた。


「いや、別に何もないよ」

「そうですか。それならいいのですが」


 俺は変な心配をかけてしまったことに申し訳なくなったので、人と一緒に居る時に考え事をするのは気を付けようと思った。


 そう心に刻むと、俺は鶏つみれを取って食べた。


「ん、このつみれすごく美味いな」

「本当ですか?それも実は私の手作りなです」

「そうだよな。俺、これの準備一切手伝えてないし。でもそっか、今日は本当にほとんど姫花の手料理だな」

「確かに、最初はそんな感じが全然しませんでしたが、話しているうちにだんだんとそう思えてきました」

「うん。ありがとな。やっぱり美味いわ」

「そうですか?ありがとうございます」


 そう言いながら少し恥ずかしそうに笑う姫花。


 やっぱり、人は褒められると恥ずかしくなるのと同時に嬉しくもなる生き物なんだなと改めて思った。


 それなら、俺はこれからも姫花をたくさん褒めたいと思った。


 そんなことを考えながら、ふと自分の発言を思い出した。


 そして、俺がしなくてはいけないことがあることに気が付き、慌ててそれを口にする。


「それじゃ、年越しそばは俺が作らないとな。って言ってもただ麺を茹でて盛り付けるだけなんだけどな」

「いえ、それだけでも十分ですよ。ありがとうございます」


 そう言って、姫花は優しく微笑みかけてれた。


 そんな感じで、俺たちは鍋を食べ進めた。

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