五章 3話

「はー疲れた……」

「そうですね……」


 二時間程集中して勉強をしていた俺たちは、五時になったのでそろそろやめようかという話になった。


 俺たちは一度集中しだすとなかなか終わらないのが取り柄であり欠点でもあるので、本当に時間を忘れてしまいそうになる。


「これ、少しの間お借りしてもいいですか?」


 勉強道具を直していると、姫花がそう言って先ほど貸した英語の参考書を見せてきた。


「気に入った?」

「はい。想像以上に面白くてためになるので、ぜひもっとしっかりと読み込みたいなと思いまして」

「そっか。じゃぁ全然いいよ」

「本当ですか?ありがとうございます」


 姫花はそう笑顔で言うと、それを鞄の中にしまった。


 そして、俺も出してきた参考書を本棚に戻し、出かける準備を始めた。


 なぜ五時になって勉強を切り上げたかと言うと、今から俺たちはスーパーに買い出しに行くからだ。



 事前に話し合った結果、夜ご飯は鍋にしようと言う話になったので、それなら当日一緒に食材を買い出しに行こうかとなったのだ。


「よし、じゃぁそろそろ行こうか」

「そうですね。行きましょう」


 そうして、俺たちは防寒対策を完璧にしてから、部屋を出た。



 外は冴えわたる程の綺麗な青空が広がっていたが、それでも肌に当たる空気は少し痛い程に冷たかった。


「やっぱり寒いな」

「そうですね。直接肌に当たる風が肌を刺しますね」

「だな」


 姫花はそう言うと、手袋の上からはーはーと手に息を吹きかけて温めていた。


 俺はそんな姫花が吐いた息が白くなるのを見て、余計に冬の訪れを感じて、一人で物思いにふけっていた。


「しかし、今日は全然人がいないな」

「確かに、あまり人の姿を見かけませんね」


 大通りに出ると、いつもの半分もいないほどしか歩いている人がいないことに、俺たちは真っ先に驚いた。


「あれかな、大晦日だから、みんな家でゆっくりと過ごしているからかな?」

「そうかもしれませんね」

「まぁ、この寒さなら、無理もないか」

「確かにそうですね。温かい我が家の方が落ち着きますしね」


 そんな会話をしながら、俺たちは並んで歩いた。



 スーパーにつくと、俺たちは必要な物を買い、家に向かった。


「全部持ってもらってすみません。何かお持ちしましょうか?」

「いやいいよ。別に大した量じゃないし」

「そうですか?」

「そうだよ」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」


 そんな感じで家に向かって歩いていた時、ふと目に止まった店があった。


「あ、そうだ姫花。ちょっとここによって行かないか?」

「ビデオのレンタルショップですか?」


 そう、俺がよりたいと思ったのはビデオのレンタルショップだった。


「どうしてですか?」

「なんだろうな、ちょっと映画でも見ないかなって思って」

「なるほど。確かに少し時間を持て余しそうですしね」

「そうなんだよ。だから、一時間半ぐらいの映画でも見ようかなって思って」

「いいですね。では入りましょうか」


 そうして、俺たちは中に入った。


 中は意外と広く、たくさんあるビデオがきちんと整頓されていた。


 そんな数あるビデオの中から、俺は中学の時によく見た作品を見つけた。


「あ、あった」

「何か探されていたんですか?」

「まぁ、探してたと言えば探してたかも」


 コレ単体を探していたわけではないが、いくつかの候補の中の一作品であったことには変わりない。


「どういったモノなんですか?」

「そうだな……俺が中学の時に、勉強の息抜きによく見てた作品なんだよ」

「そうなんですね。それは楽しみです」

「内容は……」


 俺が、簡単にどんなものなのか説明しようとすると、姫花はそれを遮ってきた。


「言わないでください」

「いや、えっと……」

「冬治君が好きだった作品ですので、情報はそれだけで十分です」

「そういうもんなのか?」

「はい、そういうモノです!」

「まぁ、姫花がいいならいいか…」


 俺は姫花がプイッとそっぽを向いたので、これ以上は追及しないことにした。


 何故だろうか、俺には女心と言う物が分からないのかもしれない。

 いや、それも仕方ないか。だって、彼女できたことないし。


 姫花を通じて、学ばせてもらおうと、俺はこの時初めて思った。 


 そんなこんなで、俺たちはビデオをレンタルすると、そのまま真っすぐ家に帰った。




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