五章 2話

 卒アルを見終わったころには少し時間が経ち、気が付けば二時間も経っていた。


「お、もうこんな時間だな」

「本当ですね。かなり夢中で卒業アルバムに見入ってしまっていました」

「だな。俺なんて今日二回目なのに、一回目よりもずっと楽しんでた」


 俺はそう言いながら卒アルを元の棚に戻した。


「これからどうしましょうか。少し時間ができてしまいましたが」

「んーそうだな、特に何をするか決めてなかったからな……」


 俺たちはそう言いながら、二人で真剣に考えた。


 俺は家を見回って何かないか探すが、相変わらず娯楽用品が一切と言っていいほどないので、何をしようかと悩んだ。


 そして、ほとんど同じタイミングで俺たちはある提案をした。


「もう勉強しかないか」「勉強でもしますか?」


 まさかの勉強で話が一致した。


「まさか勉強で被るとはな」

「ですね。やっぱり、それなりに勉強はしておきたくなりますよね」

「そうだよな」


 俺たちはなぜか勉強の話で盛り上がっていた。

 でもまぁ、俺たちらしいとは思った。


 普通、勉強の話なんて聞きたくないらしい。

 休みの日までなんて話するんだよ、頭おかしいんじゃないか?ってなるのだが、こと首席と次席との会話では、当たり前のように出てくるのだ。


 実際に、俺たちがいつも一緒に帰っているときなんて、大半が今日の授業についての振り返りのようなものだった。


 まぁ、それだけ俺たちが勉強に対してもおはや趣味の領域までのめり込んでしまっていると言うことなのだが。


「じゃぁ、普通の勉強じゃつまらないし、ちょっと変わった参考書使うか?」

「そんなものがあるんですか?」

「あぁ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、俺は参考書がたくさん並べられた本棚へと行き、目当ての参考書を探した。


「お、あったあった」

「どれですか?」


 俺が参考書をもってかえって来ると、姫花は少し身を乗り出して俺の参考書に目をやった。


「いくつかあるんだけど、まず初めに高校物理を絵で覚えるっていうやつ」

「それはすごいですね。やっぱり冬治君程になると、普通の問題集などではなく、そう言った変わったものも使われているんですね」

「まぁ、それは置いといて、だ。次は大学入試で正答率二割以下の問題を集めた鬼畜問題集全教科対策版」

「そんな問題集があるんですね。確かにそれができればすごく得点力はアップしそうですが」

「それで最後が、英会話ができるようになるための英語の勉強法っていう問題集というより参考書に一番近いやつ」

「最後の参考書もなかなか重要なものですね」

「だろ?」


 俺が一通り紹介すると、三冊の参考書を眺めながら、姫花は少し考えていた。


 そして、ついに結論が出たのか、バッと顔を上げた姫花は、一つの参考書に指をさした。


「では、これをお借りしてもいいですか?」

「了解。全然いいよ」

「ありがとうございます」


 そうして姫花が手に取ったのは、英会話の参考書だった。


「私、あまり英語が得意ではないので、正直このような参考書には少し興味がありまして」

「意外だな。姫花が英語苦手なんて」

「そうですか?」

「うん。何か英語は俺よりもできるんじゃないかっていうイメージだった」

「そんなことは無いですよ。私、テスト前はいつも英語だけは念入りにするようにしていますから」

「そうなんだな。結構意外だった」


 何と言うか、かなりしっかり者だから、そう言う人はスマートに英語を話しているイメージがどうしても俺の中にあったので、姫花は英語がペラペラに話せるんじゃないかと勝手に思っていた。


「それじゃ、さっそく勉強始めるか」

「はい。それじゃぁありがたくお借りさせていただきます」


 そうして、俺たちは互いに向かい合って勉強を始めた。

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