五章 大晦日と初詣
五章 1話
十二月三十一日。
大晦日の日になった。
「今日は昼から姫花が家に来るんだっけ……」
俺はそう呟きながら予定を思い出した。
午前中は特に何の予定もなく、午後から姫花が来る。
その後、夕飯の買い出しに行って一緒に年越しをする。
明日はそのまま初詣に行って、解散となっていた。
「それまでどうしようかなー」
部屋の片づけを済ませ、ある程度の大掃除も終わらせていた俺は、正直やる事が全くと言っていいほどなかった。
こういう時、ゲームや読書などの趣味があればいいのだが、生憎と小説すら読まないタイプなので、本当に暇だった。
「結局、年末も勉強かな……」
俺はそう呟きながら、最後のもう一度部屋を見回し、何かないか探した。
すると、ある一つの物に目が留まった。
「お、コレ懐かしいな」
そうして手に取ったのは、中学の時の卒アルだった。
「もうそろそろ一年が経つのか。時間が経つのは本当に早いな……」
そう呟くと、俺はさっそく卒アルを取り出し、椅子に座ってテーブルの上に広げた。
中学生の時に仲の良かった友達や、すごく俺を気にかけてくれていた先生など、懐かし思い出がたくさん詰まっていた。
「ま、なんといっても一番の目玉は卒業文集だろ」
俺はそう言うと、わくわくしながらいろんな人の卒業文集を読んだ。
馬鹿なことを書いている奴もいれば、真剣に将来のことについて書いている奴もいる。
そうかと思えば誰か向けに書かれたラブレターのような内容になっている奴もいるし、学校での懐かしい思い出話を書いている奴もいた。
「うんうん。やっぱり、卒業文集ってのはそれぞれの独特な色が見られるから何度見ても面白いな」
俺はそんなことを呟きながら、結局全員分読んだ。
そんなことをしていると、かれこれ十二時を回っていたので、集合時間の一時まであと少しとなっていた。
「そろそろ昼飯だな」
俺はそう言って立ち上がると、キッチンへと向かった。
昼飯を食べ終え、片付けを済ませると、ちょうどインターホンが鳴った。
「お、来たみたいだな」
そう言って、俺は玄関へと向かい、鍵を開けた。
ドアの先にはいつも通り清楚を感じさせる服装をした姫花が立っていた。
しかし、少し驚いたことがあった。
それは、姫花の服装がいつもよりも少しラフなのだ。
黒色のタイツはいつも通り履いているが、白色のワンピースのような物を着ていて、上には少しぶ厚めのコート一枚。
後は軽くマフラーを巻いていて、冬なのにそんな恰好で大丈夫なんですか?と聞きたくなるような恰好だった。
俺がそんな初めて見る姫花の服装に内心で驚いていると、姫花はそんなことは気にもせず、挨拶をしてきた。
「こんにちは、冬治君」
「おう、姫花」
俺はさすがに寒いだろうと思い、さっと挨拶を済ませると、すぐに部屋に上がってもらった。
「寒いだろうし早く入って」
「はい、ありがとうございます。では、お邪魔します」
そうして姫花は部屋へと上がってきた。
中に入ると、俺が広げっぱなしにしていた卒アルに興味を持った。
「これ、中学生の時のやつですか?」
「そうそう、ちょっと暇だったから見てたんだ」
「そうなんですね。私も見てもいいですか?」
「ん?あぁ、全然かまわないよ」
俺がそう返事をすると、姫花は少し大きめの荷物を置いて椅子に座った。
それを見て、俺もその対面に座り、一緒に眺める。
ちなみにどうして少し大きめの鞄できているのかと言うと、今日は俺に家に泊まり、明日の朝起きてからすぐに初詣に行こうと言う話になったからだ。
まぁ、日付が変わってから家に帰すのもどうかと思うし、それが最善であるのは間違いじゃなかった。
「あ、さっそく冬治君を発見しました」
俺がそんなことを考えていると、姫花が卒アルの俺の姿に指をさしてそう言った。
「本当だな。俺、あんまり自分のこと探すの得意じゃないんだよな」
「私も同じような感じです。やっぱり、皆さん自分を探すよりも他の人を探す方が簡単なのかもしれませんね」
「そうだな。確かに昔仲が良かった友達とかの方がすぐに見つかるもんな」
そんな会話をしながら、俺たちは少しずつ卒アルのページをめくっていった。
「冬治君って、中学生の時からあまり変わっていませんね」
「そうかもな。自分ではあんまり分からないけど、変わったとも思わないしな」
「中学生の時も今と同じような感じだったんですか?」
「そうだな……確かにあんまり女子との関わりはなかったかな。基本的に仲のいい数人と常に一緒に居るって感じだったかな」
「やっぱりそうなんですね」
「やっぱり?」
姫花の発言に少し引っかかった俺は、そう聞き返した。
すると、姫花は少し苦笑いをしながら答えてくれた。
「はい。写真を見る限り、お友達と撮られた写真の方は良い笑顔なのに対して、女の子と一緒に撮られた写真では少しぎこちなさそうにしていますから」
「確かに、ほんとだ」
姫花にそう言われて見てみると、そんなにはっきりとはしていないものの、確かにそうなっていた。
「俺、無意識のうちにそんな癖が出てたなんて知らなかったわ」
「私も、人に指摘されるまで気が付かない癖がたくさんあります」
「ほんと、なんか不思議だよな」
「そうですね」
そんな感じで俺たちは話をしながら俺の卒アルをじっくりと見ていた。
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