四章 7話
様々なことを話していた俺たちだったが、ふと時間を確認すると、夜の十時になっていた。
「おぉ、もうこんな時間か」
「わ、本当ですね」
俺も姫花も夢中になって話していたので、完全に時間を忘れていた。
「そろそろ帰らないとな」
「はい、残念ですけど、そろそろお開きですね」
そう言うと、姫花はさっさと帰りの支度をした。
と言ってもほとんど持ち物はなかったため、支度はすぐに終わり、俺たちは1分程度で玄関まで来ていた。
そして、俺は帰ろうとする姫花を呼び止め、送っていくと提案した。
「今日はもう遅いから、家まで送るよ」
「いえ、でも迷惑になりますので……」
「いいって。もし帰りに何かあったら心配だし」
遠慮する姫花に、俺は食い下がった。
さすがに、こんな時間に一人で帰らせるのは、危険だし、何かあってからでは遅いので、ここはどうしても譲れなかった。
だから、姫花もこれ以上断るのは逆に相手に失礼だろうと思ったのだろう。
少し口元を緩めて、優しい口調でお願いをしてきた。
「それでは、お言葉に甘えてお願いさせていただきます」
「うん、了解」
こうして、俺たちは二人で家を出た。
家の外はすごく寒く、マフラーが無ければとてもじゃないが外を歩けないほどだった。
「しかしもうすっかり冬だな」
「そうですね。ついこの間までは秋という感じでしたのに。時間が経つのは早いですね」
「そうだな。もう冬休みも一週間が経過しようとしてるもんな」
「そうですね」
俺たちは、乾いた空を見上げた。
「星も綺麗に見えるな」
「確かに、かなりたくさんの星が見えますね」
「なんというか、冬の夜空って独特だよな。どの空よりも広く感じると言うか、ボーっとしてたら吸い込まれそうになるっていう感じだな」
「確かに、言われてみればそうですね」
「だろ?」
俺たちはもう一度空を見上げる。
住宅街なので、明かりは多からず少なからずと言った具合だが、それでも数多くの星が見られる。
寒く暗い空の中にきらきらと輝く星が、俺の心を浄化してくれるような錯覚がする。
「ほんと、俺はやっぱり星が好きなんだよな……」
俺は思わずそんなことを口にしていた。
それを逃さないのが姫花で、彼女はその言葉を聞いて興味深々に尋ねてきた。
「冬治君は星が好きなんですか?」
「うん。小学生の時に母と星を見に行った時からずっと好きなんだよ」
「そうなんですね。私も星座とかには詳しくはないですが、星を眺めるのは好きですね」
「あぁ、俺もそんな感じだよ。別に知識的に興味があるわけじゃないんだけど、ただ眺めるだけで何かを一杯にさせてくれるんだよ、星は」
「それ分かります。何かは分からないんですけど、間違いなく何かを満たしてくれますよね」
「そうなんだよな」
俺たちは並んで空を見上げながら歩き、そんなことを語り合った。
「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ誘ってくれてありがとう」
「いえいえ。私こそ楽しかったです」
三十分も経てば、俺たちは姫花の家に無事到着した。
そして、家に入ろうとした姫花は、何かを思い出したように振り返り、そして口を開いた。
「そう言えば、冬治君」
「ん?なんだ?」
「冬治君は年末年始に予定はありますか?」
「いや、特にないぞ」
俺がそう答えると、姫花は目を輝かせて俺に迫ってきた。
「でしたら、一緒に年越しと初詣に行きませんか?」
「いいぞ。姫花が行けるなら」
「私は大丈夫です」
「そっか。なら行こうぜ」
俺は一応確認を取ってから、了承をした。
ぶっちゃけ冬休みはずっと暇だし、こんなにもキラキラした目をして頼まれては、断れるものも断れない。
俺の返事を聞いた姫花は、てても嬉しそうにしながら話を続けた。
「ありがとうございます、冬治君」
「いや、良いよ別に。俺も一人で行くよりかは絶対二人で行った方が楽しいと思うし」
そう言って、俺は姫花に微笑みかけた。
「それもそうですね」
姫花も同じように俺に微笑みかけてくれた。
「それじゃぁ、また大晦日ってことでいいのか?」
「はい、それでお願いします。詳しいことはメッセージでやり取りしましょう」
「そうだな。了解」
「それでは、また」
「おう、また」
こうして、俺たちは次の予定を立ててから別れた。
姫花が完全に家に入るのを見届けた俺は、一人で歩きながら夜空を見上げながら考え事をした。
「次は大晦日か……」
俺はそんなことをポツリとつぶやいた。
いつもならだらだらと部屋の片づけをして、年末最後の勉強をして変なことを持ちこさないようにしている日だ。
そんな日に、俺は女の子とデートをするのだ。
「まったく、一年前の俺には考えられないことだな」
俺は自嘲気味に笑いながら、今年の出来事を思い出す。
高校に首席で入学し、入学式当日に友達ができ、そして今ではできないと思っていた彼女ができた。
その彼女は、学校では完璧で鉄壁な美少女だと呼ばれているが、知れば知るほど新しい一面があり、想像していた以上に可愛らしい女の子だった。
残り少なくなった一年に、俺は少しの寂しさを覚えつつも、何かやり残したことは無いかと頭を整理した。
「うっ、寒いな」
突然吹いてきた風に身震いした俺は、コートの上から腕をさすった。
俺は歩く速度を速めて、初詣ではもう少し厚着をしようかなと考えながら早歩きで家へと向かった。
そして、俺は大晦日に何を作ろうかと考えていると、不意に心によぎった言葉があった。
「……楽しみだな」
俺は無意識にそう口にして、家への道を急いだ。
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