四章 4話
「綺麗ですね……」
「そうだな……」
目的地に到着した俺たちは、駅を出てそうそうにそう口にした。
なんというか、まさか駅を出てすぐに光の海が広がっていたので、どこか違う世界に来てしまったのか、とそう感じずには居られなかった。
「不意打ちですね」
「そうだな。てっきりもっと街中に行かないとやっていないと思ってた。確かに大規模だとは聞いてたけどここまでとはな」
「そうですね」
あまりに驚きすぎて、駅を出てすぐに立ち止まってしまっていた俺たちは、そろそろ歩き出さないと他の通行人に迷惑をかけてしまうと思い、足を動かし始めた。
歩いていくと、街は様々な色の光で包まれていて、大通りでは道路沿いに植えられた木々にイルミネーションが灯されていて、光の道が出来ていた。
「何と言うか、思っていた以上のクウォリティーだな」
「そうですね。私も昔から様々な所のイルミネーションを見に連れて行ってもらっていましたが、ここまでの物は見たことがありませんね」
「そうなんだな」
姫花がこれほどの物を見たことがないと言うのであれば、恐らくだが相当綺麗で、そして大規模なのは確かだろう。
俺はこれが初めてなので、今後もし見に行く機会があれば、果たして満足できるのか不安になってしまう。
「この街と一体化した感じがいいんだよな」
「そうですね。普段からある風景の中に、新しい世界が広がっているって感じますね」
「そう、そうなんだよ!」
姫花が俺と同じように感じてくれていたことが妙に嬉しくて、思わず大きな声を出してしまった。
なのでもちろん周りからの視線が集まる。
「ッ……!」
俺たちは恥ずかしくなって、縮こまった。
俺はそんな状況を変えるために、話をふった。
「ひ、人が多いな」
「そ、そうですね」
そして、俺は手を差し出した。
「はぐれるとまずいし、手、繋ごっか」
「はい!」
少し恥ずかしそうに、でもハッキリとそう返事をした姫花は、差し出した俺の手を取り、指を絡めてきた。
恋人繋ぎ……水族館へ行った時以来だ。
まだ二回目なので慣れるはずもなく、妙な恥ずかしさがあり、俺たちは互いに顔を逸らしてしまった。
「じゃあ、見に行こっか」
「はい、行きましょう」
そうして、俺たちは光の世界へと旅立った。
イルミネーションはかなり長く道路沿いに続いていて、道を歩く人の中には、俺たちのように並んで歩く恋人同士や夫婦の姿が多く見えた。
今まで全く縁のなかった俺にとっては、余計に自分が付き合っているのだと実感させられるので、不思議な感覚だった。
長い道を、雑談をしながら歩き、軽く三十分ほどの時間が経った。
すると道路は徐々に明かりの数が減っていき、突き当りが目視できるほどまできた。
「そろそろ終わりだな」
「そうですね……。距離はかなりありましたが、時間としてはほんの僅かでしたね」
「そうだな」
そう言っている姫花も俺も、いまだに意識は上の空だった。
ただただまぶしく包んでくれるイルミネーションの光の世界を心の底から満喫しようとしていて、実際とりこにされていた。
最初こそ恥ずかしかったものの、いつの間にか恋人繋ぎをしていることも慣れてしまっていた。
「あれ、あちらにも何かありますよ?」
姫花にそう言われ、俺は指の方向へと向いた。
すると、そこにもイルミネーションで飾られた道が続いていたのだが、その先には広場のようなものが広がっており、そこにも装飾が施されていた。
「おぉ……」
俺はその光景を見て、思わず感嘆の声を上げた。
「冬治君、行ってみませんか?」
「そうだな、行ってみようか」
そう言って、俺たちは広場の方へと向かった。
道中の装飾は、道沿いの物とはまた違っていて、建物を中心としたものが多かった。
中にはかなり大堂なサンタクロースのイルミネーションや、トナカイが動くイルミネーションがあった。
そして、俺たちは広場に着くと、さらに驚くこととなった。
「おー」
「すごいですね……」
広場の中心に、ビルの二階を優に超える高さのクリスマスツリーがあった。
そのクリスマスツリーに、数えきれないほどの色とりどりなイルミネーションが飾り付けられていて、オーナメントやベルなども無数に飾られていた。
「クリスマスツリーか……。小学生の時以来だな」
「そうなんですか?でも、私も家に飾っていたのは去年までですね」
「だよな。さすがに大きくなるにつれて、クリスマスツリーに触れ合う機会も減ってしまってるからな」
「そう考えると、何だかとてもありがたく感じますね」
「だな」
俺たちはそう言って笑うと、広場を軽く回った。
広場は、クリスマスツリーを中心に一周の道があり、その周りにはいくつかのイルミネーションのオブジェがあった。
プレゼントやサンタクロース、クリスマスに関係している物からしない物まで数多くのオブジェが置かれていた。
「なんでもありだな」
「そうみたいですね。でも、綺麗なのでいいんじゃないでしょうか?」
「ま、それもそうだな」
そんな風に、俺たちは軽く談笑をしながらゆっくりと回った。
「よし、そろそろ頃合いかなー」
「そうですね。一通り見て回りましたので、終わりにしましょうか」
「そうだな」
時計を見ると、すでに六時を回っていた。
辺りが暗くなりだす頃を目安に来たので、勿論今は真っ暗だった。
「この後どうしようか」
「そうですね、このまま解散というのも少し短いようにも感じますしね……」
「それなら、晩ご飯食べてから帰ろうか」
「そうですね、そうしましょう」
こうして、俺たちはどこかで晩ご飯を食べる場所を探した。
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