四章 3話
目的地はここから電車で十五分ほどの所にあり、そこまで遠いと言うほど遠くは無かった。
「今日は突然の誘いに乗っていただきありがとうございます」
「いや、良いよ全然。てか、俺もイルミネーション好きだから、誘ってもらえてむしろ嬉しかったし」
「そうですか。それならよかったです。私もイルミネーションを見るのが好きなんですけど、やっぱり去年は受験勉強で忙しかったので、中々じっくりとした時間は取れなかったんですよね」
「なるほどな」
俺は、去年の今頃を思い出しながら、心から納得をした。
まぁ、俺の場合は別にそこまで普段と変わった勉強をしていたわけではないが、それでも精神的にきつかった覚えはある。
「ですので、今年は絶対に行きたいと思っていたんです」
「そうだったのか。俺が断ってたらどうしてたんだ?」
「そうですね、その時は一人で行こうかと考えていました」
「それはまた……」
俺は、誘いに乗って正解だったなと、改めて思った。
だってそうだろ?こんな美少女が一人でデートスポットに行くとか、絶対と言っていいほど良からぬことが起きるだろう。
「それにしても、今日はやけに混んでるな。冬休みとは言え、社会人はまだ仕事があるだろうに」
「冬治君、知らないんですか?」
「え?」
俺が電車の中を見回しながら人が多いことを指摘すると、姫花は驚きの声を上げた。
そんな反応を見ると、何か俺が変なことを言ったのかと不安になったが、思い返してもそんことはなかった。
「冬治君、今日がいつか分かりますか?」
「え、12月25日だろ?」
「はい、そうなんですけど、今日が何の日かご存知ですか?」
「何の日?冬休み六日目とか?」
「そうではないですね」
「だよな」
それから、俺は真剣に考えた。
12月、12月……今日は冬休み……は社会人には関係ないし、電車が混むから通勤通学?いや、でもまだ4時だぞ?意味が分からん……花火大会は季節外れだし、祭りでもあるんだろうか?
テスト中でもこれほどまでに記憶を掘り返したことはないと言うほどの俺は記憶の中の記憶を探し、そしてようやく一つの答えを見出すことができた。
「12月25日……あっ!」
俺はそう小さく声を上げると、難問を見事解いたときのスカッとするあの感覚に近いものを感じながら、周りに迷惑にならない程度の声で答えた。
「クリスマスか!」
「そうです、忘れてましたか?」
「あぁ、完全に忘れてたわ。中学校に上がってから、サンタも来なくなったからな。長らく触れる機会が無いと忘れる物だな……」
「普通は忘れませんけどね、イベント的な物は」
姫花は、苦笑いをしながらそう言った。
クリスマス、それは小学生の間まではプレゼントが貰えるとても嬉しい日で、それ以降では恋人のいない人には何の日でもない、ただの一日となる。
「なるほどな。つまりはこれはクリスマスデートってことか」
「はい。最初からそのつもりでお誘いしたんですけどね……。まさか気がつかれるのが今とは思いませんでした」
「悪いな、気が付かなかった。それでも、誘ってくれてありがとな」
「いえ、どういたしまして」
そう言って微笑む姫花からは、美しいオーラが放たれていた。
その美しさは、俺がどう頑張ってもつかむことができないような錯覚に陥るほどのもので、女神というのが最もふさわしいのではないかと感じられた。
勿論そんな姫花のオーラの中にも、学校ではなかなか見せない楽しみという感情も混ざっているため、その部分を感じられると、なんと言うか保護欲をくすぐられる。
「しかし、イルミネーションか。どんな感じなんだろうな」
「そうですね。とても楽しみです」
「だな」
俺たちはそんな風にイルミネーションへの期待を膨らませながら、目的地への到着を電車に揺られながら待った。
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