三章 8話

 月日は流れ、期末テスト当日。


 十一月も下旬に差し掛かろうかというこの時期に、慧城高校では期末テストが行われようとしていた。


「おはようございます、冬治君」

「おはよう、姫花」

「体調はどうですか?」

「万全だな。俺はテスト勉強、一ヶ月前から終わらせてたから」

「そう言えばそう言ってたましたね」


 俺の言葉に、そう返しながら笑う姫花。


 最近、ちょっとしたことでの笑顔が増えてきたと思う。

 これは、俺への信頼が高くなっているのだろうか。


 分からないが、そうなら嬉しいことだ。


「姫花はどうだ?自信の方は」

「やれるだけのことはやりましたので、大丈夫だと信じたいですね」

「姫花は努力家だもんな。正直ここまで努力してるとは思ってなかったから少し意外に感じたよ」

「そんなに褒められると少し恥ずかしいですね……」


 そう言って頬を赤らめるその姿は、一つの完結されたアートのような美しさがあった。


 俺はそんな姿に意識を奪われないように、サッと脳を再始動させながら、話を進めた。


「まぁ、お互い死力を尽くして頑張ろう!」

「はい!」


 そう言って、俺たちはそれぞれ自分の席へと向かった。


 今、俺たちは教室で話していたのだが、もう俺たちが教室で話していても、違和感を覚えるような奴はいなくなっていたし、羨ましがる奴はいても、妬む奴はいなかった。


「それじゃぁ席に着け。テストを配るぞ」


 予鈴のチャイムと同時に監督の先生がそう言った。


 クラスメイト達はそれぞれ最後の悪あがきをする者もいたり、潔く参考書を片付けるやつもいた。


 そして、もう一度チャイムが鳴ると、全員が一斉に紙を裏返す音と共に、名前を書くシャーペンの音がせわしなく鳴り響く。


 俺は名前を書き終えると、「やるぞ!」と再度決意を固くし、すぐさまに問題へと取り掛かった。




 テスト結果発表日。


 十一月も終わりに近づいたこの日、少し肌寒い廊下には、大勢の人が集まっていた。

 勿論お目当ては順位表だ。


 うちの学校では、二百人以上いる生徒全員の順位が、一位から最下位まで乗っている。


 なので、あまり順位の高くない人は、少し恥ずかしい思いをし、逆に高い人は少しの優越感を得たりするらしい。


 俺も順位表を一番上から順番に見る。

 すると、所要時間僅か1秒未満でにして発見することができた。


「あ、あった」


 俺は、いつも通り探すまもなく上から一番目に自分の順位が見つかった。


 が、しかし今回はそれよりも後をいくつか見たかった。


「おはようございます、冬治君」

「あぁ、おはよう、姫花」

「相変わらず首席ですね」

「姫花も次席じゃん」

「そうですね。正直今回はかなりできた自信があったので、もしかしたら冬治君にも勝てたかもと思っていたんですけどね……」


 そう言った姫花は、少し残念そうな顔をしていた。


 だから、俺はどうしてこんな結果になったのかを教えてあげることにした。


「まぁ、姫花の点数は歴代でもかなりの高得点だったんだと思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。今回三位の子が春咲と同じクラスなんだけど、春咲が聞いたところによると確実に間違いが決まっているのが四問って言ってたから、たぶんだけど四百九十点程は取れてると思うよ」

「ということは、私はそれよりも高いと言うことですもんね」

「そうそう」

「では、冬治君は二問間違いとかそのレベルってことですか?」


 驚き、かつ関心したような表情をしている姫花は、俺にそう聞いてきた。


 だから、俺は自慢になる事覚悟の上で、春先に答えた。


「たぶん、一つも間違えてない」

「えっ!」


 俺の言葉を聞いた姫花は、信じられないと言った様子で驚きの声を上げた。


「満点ですか?」

「うん。たぶんだけど満点」

「すごいですね。中学生の時でも、満点の方とは出会いませんでしたよ」

「まぁな。俺もこれが初めてだよ。やっぱり、勉強会とかでアウトプット作業ができたからかな」

「そうかもしれないですね」


 そう言って、姫花は納得したようにうんうんと頷いた。


「でも、正直焦ってるんだよな、俺」

「え?どうしてですか?」

「今までは、簡単に学年首席を三年間キープできそうだなと思ってたんだけど、今回姫花が異様な程実力を伸ばしてきたから、楽には勝てなくなるんじゃないかと思ってな」

「そうなんですね」


 俺の言葉に、姫花は納得半分謙遜半分と言った様子だった・


「でも、今回はたまたま良かっただけですから」

「どうだろうな、姫花なら分からないな」

「どうしてですか?」


 俺の言葉に、姫花は説明を求めてきた。


 だから、俺は少し楽しそうに笑って言った。


「姫花は努力の才能が人一倍あるからね。いずれ抜かされるかもって思うんだ」

「そ、そうですか?ありがとうございます……」


 俺のまっすぐな褒め言葉に、思わず姫花が顔を赤らめる。


 そして、その表情を何とか元にもどして、姫花も挑戦的な口調で話した。


「それでは、今度は絶対勝って見せます!」

「それなら、俺もより一層気合を入れて頑張らないとな」


 そう言って、俺たちは互いに見つめ合った後、笑い合った。


 こうして、俺たちの期末テストは無事幕を閉じたのだった。


 次のテストへの意気込みを残して。



 ちなみに、颯太は五十三位、春咲は二十位と、二人ともかなりの順位アップをしていた。

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