三章 7話
「はぁぁぁーー。もう限界だー!」
「私もちょっと疲れちゃったー」
「そうですね、そろそろ休憩にしましょうか」
三人がそう言うので、俺は伸びをしながら時計を見ると、十二時半を少し回ったところだった。
「確かに、二時間以上も集中して勉強してたもんな。それにお昼の時間だしな」
「よっしゃ!ようやく颯太の飯を食える!」
「楽しみですね」
「そうだねー」
「はいはい、今から作りますよ」
俺は三人にせかされて、サッサとキッチンへと向かった。
「オムライスでいいか?」
「おーオムライス!」
「私、食べるの久しぶりかも」
「オムライスですか。私、卵料理がかなりの好物なので嬉しいです」
「よし、じゃぁ決まりだな」
俺は三人の反応を見た後、さっと冷蔵庫から必要な材料を出し、手際よく作った。
「はい、お待ちどうさま」
全員分のオムライスを作り終えた俺は、そう言ってテーブルに四つの皿を置いた。
俺が皿を運んでくると、それまで雑談をしながら待っていた三人が、目を輝かせて皿に目をやっていた。
「おー」
「待ってました!」
「おいしそうですね」
俺のオムライスを見て、皆それぞれの感想を述べた。
「ま、ある程度の味の保証はするよ」
俺は恥ずかしさをごまかすために、そう言った。
そして、俺たちはそろっていただきますをして、オムライスを食べた。
「ん、美味いな」
「ほんと、おいしい」
「ですね。卵のトロトロ加減がお店に出せるレベルですね。口の中でふわっと広がります」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」
全員がおいしいと言ってくれたので、俺は普通に嬉しく思い、そう返した。
ま、自分が作った料理をおいしいと言って食べてもらえたなら、誰だって嬉しいのは当たり前だけど。
俺たちは、そんな感じで軽く話しながら、俺のオムライスを食べた。
食べ終わった後、そろってごちそうさまをした俺たちは、一旦休憩にしようと言うことで、何か話をすることにした。
「やっぱりこういうときは恋バナ……ってのが定番なんだが、正直恋人持ちの四人でやるのはなんだか違うんだよな」
「そうだな。正直互いの惚気話をするだけになるもんな」
「そうなんだよなー。うーん……」
そして、颯太が真剣に考えていると、春咲が不意に何かを思い出したかのように姫花に問いかけた。
「そう言えば、姫花ちゃんが冬治に告白したんだよね?」
「はい。校舎裏に呼び出して告白って言うよくある感じですけどね」
そう言いながら苦笑いを浮かべる姫花。
そんな彼女に、春咲は続けて質問をした。
「ずばり、冬治のどこに惚れたの?」
「えっ!」
衝撃的なほどに直球な春咲の質問に、さすがの姫花も驚きの声を上げてしまった。
「お前、何で本人がいる前でそんなことを聞くんだよ……」
「えー。だって気になったんだもん!」
「そうだとしても本人の前ってのはちょっとな」
「いえ、良いですよ」
さすがに直接好きになった理由を聞かれるのは恥ずかしいだろうと思い、辞めさせようとしたのだが、春咲への助け舟は、意外なことにも姫花から出された。
「いいのか?姫花」
「はい。少し驚いただけですので」
「それならいいけど……」
俺はそれだけ言うと、引き下がった。
これは別に俺が無理にでも止めなくてはいけないようなことではないので、本人が良いと言うのならそれでいいのだろう。
「それで、どこに惚れたの?姫花ちゃん」
「えっと、初めに良いなと思うきっかけになったのは、六月ぐらいの時に、風山くんと仲良さそうに話している所を見たことなんですよね」
「えー。そんなの他にもいっぱいいたでしょ、友達と仲良さそうに話してる人とか」
「そうですね。でも、一番の理由がそうなだけで、他にも理由はあるんです」
「何々?」
春咲はいつにもまして食い気味に続きを促す。
「冬治君って、これまで全てのテストで一位を取ってるじゃないですか?」
「そうだな」
「それで、よく名前を目にしていたので、少々勉強面でも意識をしていたんです」
「確かに、水野さんも高順位をキープしてるもんな」
「はい。それと、私は良くも悪くもたくさんの方に話しかけていただけているのですが、冬治君は業務連絡以外で私と関わろうとしに来なかったんです」
「それが何で好きになる理由になるの?普通、自分のことに興味を持ってくれていない相手なんて視野にも入れないけどね」
「いえ、違うんです」
そう否定した姫花は、少し苦笑いを浮かべながら話した。
「自慢のように聞こえてしまうので、普段はあまり口にはしないのですが、私は多くの方に告白をされてきました」
「それはたぶんみんな知ってるから大丈夫だよ」
「ありがとうございます。それで、そのような理由からほとんどの男性が私にアプローチのようなものをかけてくるので、いつも周りには人がいっぱいでした」
そう言った姫花の顔は、お世辞にも嬉しそうだとは言えなかった。
多分、性格上どうしても強く言えず、周りに作られたイメージ通りのキャラクターで居なければいけなかったのだろう。
しかし、姫花はそんな表情をパッと切り替えて、優しい笑顔で続きを話した。
「しかし、そんな中で冬治君の姿を見つけました。恐らく、私が意識している数少ない人物の一人だったからでしょう。その時に、友達と仲良さげに話している冬治君の姿が、まぶしく、そして美しく見えてしまい、勉強以外の面でも意識をしだすようになったんです」
「なるほどねー」
姫花が話し終えると、春咲は納得をした表情で、何度か頷いた後、ニヤッとした笑顔を浮かべて、口を開いた。
「要するに、一目惚れってわけだね」
「そ、そうですね。そう言うことになります……」
今までに見たことのないような恥じらいを見せる姫花に、さすがに俺たちは声が出なかった。
何と言うか、ただただ美しかったので、邪魔をしてはいけない、そんな気がしてしまった。
「あ、あの!それでは春咲さんはどうして風山くんのことを好きになったんですか?」
自分だけ恥ずかしい思いをしたのが少し納得がいかなかったのか、それともこのなんとも言えない空気に耐えられなくなったのか、今度は姫花が春咲に質問をした。
「えっとね、最初はやっぱり顔だよねー」
「おい!さっきの水野さんみたいな胸キュンエピソードとかねーのかよ!」
「ないよー。私そこまで乙女じゃないからね。って、そんなこと颯太は知ってるじゃん!」
「知ってるけど、恋愛に関しては実は乙女思想で……みたいなギャップがあってもいいだろ」
さっきの姫花の話を聞いてからだからだろう。
颯太は、どうしてもそのざっくりとしたポイントで納得したくないようだ。
「まぁまぁ、最初は顔だったけど、別にそれだけで告白したわけじゃないから」
「そうなのか?」
「そう。まず、私がわざわざ他のクラスから仲のいい友達と喋るために颯太のいる教室へ向かうフリをして、颯太のこと観察しに行ってたの。どんな奴なのかなーって」
「で?観察した結果は?」
「勉強はあんまり得意じゃないみたいだけど、クラス全員と満遍なく仲が良いし、気配りのできる優しい人だなーって思った」
「みーちゃん……」
春咲が颯太に笑いかけながらそう言うと、颯太はお憂げさに涙目になったて、感動に浸っていた。
「だから、この人ともし付き合えたら私最高じゃん!って思ったら、居ても立っても居られなくなって、告白をしたんだ」
「なるほど。そのような経緯だったんですね」
「そう。だから、正直惚れてるのは私も姫花ちゃんと同じぐらいなんだ」
そう言われて、姫花はとても驚いた表情をし、そして同時に嬉しそうにした。
「何だか少し安心しました。私の話を聞いても、今まで通り以上に接してくださる方が、冬治君以外にもいて」
「え、どういうこと?」
その発言に、俺以外の二人は戸惑いの表情を浮かべた。
「私、対等に話し合える同級生が今まで一人もいなかったんです」
「それはどうして?」
「私、告白を多くされるのに、告白を受けたことが無かったので、私には恋愛感情というものがないものだと思われていて、中々そのような話を一緒にできなかったんです」
「あ……」
どういうことか分かったのだろう。
春咲は、姫花の話を聞いてなんとも言えない表情をした。颯太も、顔には出していないが恐らく理解はしたのだと思う。
すると、春咲はそんな表情を一変させて、姫花の両手をガシッとつかんだ。
「私と友達になろう!」
「春咲さん……」
そう、端的に告げた春咲の口調は、ふざけたものではなく、真剣そのものだった。
多分、女子高生としてともに笑い合えるような関係になれる女の子に、今まで会えなかったことを理解し、その役を私がすると言いたいのだろう。
勿論、そんなことを言われた姫花は断る理由もなく、少しウルっとした目になったが、それでもしっかりとした口調で返事をした。
「ありがとうございます、春咲さん!」
「三葉」
「え?」
感謝の気持ちを伝えた姫花に、春咲は自分の名前を返した。
どういうことか分からず姫花が困っていると、春咲は続きを言った。
「私のことは、春咲じゃなくて、三葉って呼んで?距離、少しでも縮めたいから……」
「は、はい!よろしくお願いします、三葉ちゃん」
「うん!これからよろしくね、姫花ちゃん!」
こうして姫花に、自分の素の気持ちを伝えることのできる友達ができ、この勉強会をしてよかったなと思った俺は、そろそろ区切りをつける時が来たなと思った。
「よし、じゃぁそろそろ休憩も終わりにして、後半戦と行きますか」
「そうだな」
「そうだね」
「ですね」
「じゃ、頑張ろう!」
そうして、俺たちはまた午前中のように席へと着いた。
後半の二人は、前半の時と比べて、少しばかり会話が多い気もしたが、今日は許容してあげるのが一番正しい選択だろうと考え、好きにさせた。
言わずもがな、颯太には厳しく指導したが……。
「今日はありがとう、冬治」
「いや、いいよ。勉強会とかこれはこれで楽しいもんだし」
「最初は渋ってたけどなー」
「お前に教えるのが面倒だったからな」
「酷いな、お前」
俺が辛辣に説明をすると、颯太は花蓮にツッコミを入れてきた。
しかし、俺はそれを完全に無視したため、そのまま姫花が話始めた。
「冬治君、今日はありがとうございました」
「本当に送っていかなくて大丈夫なのか?」
「はい。そこまで遠い距離じゃないので。それに、今はまだ四時ですので、あまり外も暗くないので」
「そっか、分かった。じゃ、また明日な」
「はい、また明日」
「颯太と春咲もまた明日」
「うん、また明日ー」
「おう、また明日な」
そう言って、三人は俺の部屋を後にした。
扉を閉め、鍵をかけると、一気に静かになった部屋に、少しの喪失感を感じた。
「やっぱり、友達が返った後の一人の部屋って、まだ慣れそうにないな」
俺はそんなことを呟き、テーブルの上に広げたままの参考書にそっと触れた。
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