二章 4話
「おい、あの二人一緒に下校してるぞ……」
「やっぱりあの噂は本当だったんだな」
「学校のアイドルは、隠れイケメンを取ったか……クソー!!」
「まぁ、お前なんてそもそも相手にされてなかったよ」
「そんなこと言うなよ、事実だけど悲しくなるだろ!」
「悪い悪い」
校門を出ると、たまたま通りかかった同じ学校の男子生徒がコソコソとそんなことを言っているのが聞こえた。
どうやら俺が隠れイケメンと呼ばれているのは本当らしい。
颯太の嘘かもしれないと半信半疑だったのだが、これであいつを信じることが出来た。
他にも、女子生徒の声も聞こえてきた。
「青凪くん、水野さんに取られちゃったね」
「やっぱり、あれぐらいの完璧さがないとダメみたいだね」
「顔よし、性格よし、学力よし、身体能力よし。正直非の打ち所がないもんね」
「そうだね……」
「告白出来ずに失恋しちゃった子、結構多いみたいだしね」
「そうだね」
え、本当に俺モテてたんだ。
やっぱり颯太の嘘ではなかったのか……。
俺は心の中で、颯太に謝罪をした。
それにしても、やっぱり俺と姫花の交際を否定的に言う人は、あんまりいないみたいだな……。
正直な話、これが一番心配だった。
「なんであんな奴が……」みたいな男の嫉妬の声や、「どうしてあんなのと付き合ったんだろうね、水野さん。見る目ないねー」みたいな姫花の評価を落とすようになるのではと思っていた。
しかし、実際は颯太の言った通り、そんなことはほとんどなかった。
恐らく一切ないなんてことはないだろうけど、それでも肯定多数だったのは少し安心だ。
「冬治君!」
俺がそんなことを考えていると、姫花な突然話しかけてきた。
「どうしたんだ?」
俺はそんな彼女の呼び掛けに、軽く返した。
「私、今夢を見ているようなんです」
すると、彼女はよく分からないことを言った。
俺が意味を理解出来ずに返事に困っていると、姫花はそのまま話を続けた。
「いつか、冬治君とこうやって一緒に学校からこの道を通って下校を出来たらと思っていたんです」
「えっと……」
未だに理解できず、返答に困っていた俺を無視して、姫花はさらに話をする。
「一度でもいいですけど、出来れば何度も一緒に帰りたいなと思っていたんです。たわいのない話をして、二人で帰路を歩くんです」
「……」
「最初は少しぎこちなくて、あんまり話すことができなくて、途切れ途切れの会話をするんです。でも、少しづつ慣れていくと、今日学校であった話を簡単にして、そのままたくさんの話をして、気がついたら家に付いていて、話し足りないなと思ってお別れをするんです」
俺が黙って聞いていると、姫花はそうやって自分の妄想の話を坦々と話した。
それは、いつも通りの仮面をかぶっているようなものではなく、昨日見せたような素の姫花だった。
多分、そんな話を他のやつにはできなかったのだろう。
他の女の子が自分の妄想話をしている中、自分だけはそんな話をできず、ただただ聞くだけだった。
それは、周りが勝手に思っているイメージのせいである。
だから、彼女にとってはそれは仕方の無い事と言えば仕方の無い事だった。
でも、あくまで俺の予想だが、姫花は普通を求めていたのだろうなと思った。
そう。彼女の妄想は、至って普通な女の子の考える彼氏との日常だった。
自分を演じることもなく、ただありのままの自分で、平凡に生きたいという願望だった。
誰にも言えず、一人で夢として心にとどめることしかできなかったものだ。
「何だかすみません。ずっと憧れていた状況でしたので、つい一人で話過ぎてしまいました」
俺がそんなことを考えていたら、姫花は俺がつまらなくて返事をしないのだと勘違いしたのか、そうやって謝ってきた。
「いや、そうじゃないよ」
俺は少し優しい口調でそう否定した。
そして、俺は姫花の話を聞いて感じたことを正直に話した。
「正直、話してもらえたのが少し嬉しいよ」
「えっと……」
俺の反応が予想と違ったのか、姫花は少し戸惑った様子だった。
「なんか、姫花の女の子っぽいところを初めて見れた気がするよ」
「ッ……!」
俺が笑顔でそう言うと、姫花はポッと顔を赤くした。
「も、もう。あんまりからかわないでくださいよ…」
そう言って、姫花はプイッとそっぽを向いてしまった。
俺はそんな姫花を見て、やっぱり普通の女の子で、照れたり拗ねたりする。
完璧で、みんなの理想の塊なんかじゃないんだなと思った。
だから、せめて俺だけでも、姫花には負担をかけないでいてあげたいなと、そう強く思った。
「悪い悪い」
俺はそう言って、姫花の機嫌をとった。
そして、この空気を変えるためにも、他の話題をふることにした。
「あ、そうだ。そう言えば今日は質問攻めに遭ってたけど、大丈夫だったか?」
俺は少し心配に思っていたことを聞いた。
そんな俺の話を、少しの間無視をしていた姫花だが、俺が何も話さずにじっと見つめていたら、姫花の性格上、さすがに無視しきれなくなったのか、咳払いをしてから話し始めた。
「はい。元々そうなることを承知の上で、公言しましたので」
「そっか」
どうしてだか、俺には全く質問が来なかった。
姫花は休み時間のほとんどの時間を奪われていたが、俺はいつも通り暇だった。
やっぱり俺、人気ないんじゃないのか?
俺は少し不安になったが、別に嫌われてはいないと信じることにしようと思った。
姫花に質問をしたから、俺に聞くことが無かっただけだよな、きっと。
うん、絶対にそうだ。
「まぁ、今日は初日だったもんな。明日にはほとんど無くなってると思うけどな…」
「はい。そうだといいのですが……」
そう言って、姫花は少し苦笑いをした。
やっぱり、心構えがあったとは言え、質問攻めというのは疲れるものだったのだろうなと、姫花の表情を見て思った。
明日も続くようなら、どうにかしてあげないとな。
姫花の姿を見ながら、俺はそう考えた。
「あ、そうだ。家まで送ろうと思うんだけど、大丈夫そうか?」
しばらく歩いて、駅の方へと無意識のうちに向かっていることに気が付いた俺は、思い出したようにそう姫花に尋ねた。
「いえ、悪いですよ。少し遠回りになってしまいますし」
俺の申し出に、姫花らしく遠慮をしていた。
「いや、いいんだよ。正直道中で何かあった方が怖いし、少しでも話す時間が増えるなら、楽しそうだから」
俺は、嘘偽りのない本心を言葉にした。
俺は、人と話すのが特別好きという訳ではない。
でも、姫花と話していると、理由は分からないが落ち着くのだ。
だから、俺は彼女にそう言った。
「えっと……私としてはむしろ嬉しいくらいなので、もし冬治君の負担にならないのであれば、ぜひよろしくお願いします」
「それなら決まりだな。じゃぁ、どっちに行ったらいいんだ?」
「えっと、ここを左に曲がります」
「了解」
そうして、俺たちは今度こそ姫花の家へと向かって歩き出した。
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