二章 3話

 授業が終わり、放課後となった。


 ほとんどの人間が教室を出て自宅やら部活やらに向かった中、俺は一人メッセージ通りに校舎裏へと向かった。


 俺は借りていた本を返してから向かうことで、前回のデートで学んだ早く行かないことも大事だと言うことを遂行した。


 そして、少し遅れていくと、案の定既に姫花はそこにいた。


「悪い、待たせた」

「いえ、呼び出したのは私ですし。それに、用事があったのでしたら先に済ませてくださっていた方が好都合でしたので」

「そうか」


 なんの用事があって俺を呼び出したのかは分からないが、もしかしたら少し時間がかかるのかもしれない。


 そんな風に考えていると、急に姫花が頭を下げた。


「どうしたんだ?」


 驚いてわけを聞くと、彼女は口を開いた。


「相談をせずに私たちの関係を公言してしまい、申し訳ありません」

「いや、いいよ別に。あのまま噂の独り歩きになるよりは自分たちから公言していた方が今後のためにもなったと思うし」

「私もそう判断しましたが、やはり相談なしでしたので、謝罪だけはしておかなければと思いましたて」

「なるほどな」


 どこまでも礼儀正しいのが、水野姫花と言う女の子だったな。


 俺はそう納得して、少し頬が緩みそうになって、ふと思い出した。


「いや、それはいいんだけどさ、なんで俺が断ったこと言ったの?」


 そう。俺が姫花の告白を一度断ろうとしたことは、絶対に言わなくても良いようなことだ。

 姫花は言うべきと判断したことですら、相談なしにしてすみませんと謝罪をしたのに、言わなくてもいいことをわざわざ言う理由が分からなかった。


 そう思い聞いたのだが、彼女は俺から目を逸らし、ボソッと理由を言った。


「少し、気にしていたので……」


 俺はそれを聞いて、思わず笑いそうになった。


 事実上付き合うことになったとはいえ、一度は拒絶されたのだ。

 気にしていない方がおかしいと言えばおかしい。


 ただ、姫花がそれを気にしていたというのが、いつものお嬢様というイメージと違い、昨日のように子どもっぽくて、無性に可愛らしく思えた。


「そんな理由だったんだな」

「そんな理由とはなんですか!私だって女の子なんですから!」

「ごめんごめん。でも、それならまあチャラでいいよ。俺も一度断ったのは事実だし」


 俺がそう言うと、姫花は少し頬をふくらませたが、すぐに息を吐いて、溜息にした。


「では、私からのお願い、一つ聞いて頂けませんか?」

「ん?まぁ、べつに俺ができる範囲ならいいけど…」


 姫花は、俺の回答を聞くとありがとうございますと言ってから、お願いというものを言ってきた。


「私と、一緒に下校していただいてもよろしいでしょうか?」


 その内容とは、至ってシンプルなものだった。


 それは、恋人なら当たり前にしているようなことで、改まってお願いられなくても、承諾するようなものだった。


「それくらいならいいぞ」

「本当ですか!」


 俺が姫花のお願い事を受け入れると、彼女は嬉しそうな声でそう返してきた。


「と言うか、何で今までしてなかったのか分からないんだが…」

「もし、今日以前に一緒に下校してしまうと、周りにバレてしまうと思っていたからです」

「あ、なるほどな」


 俺は、姫花の気配りの凄さに感心した。


 俺は頭の回転は早い方だと思っていたが、どうやら全体を見る能力が欠けているようだ。

 そういう所が、姫花の人望の厚さなのかなと、改めてこの学年一の美少女の完璧さを目の当たりにした気がした。


「まぁ、それならもう安心だもんな。てことは、今日の本題はこっちってことか?」

「そう……ですね。どちらかと言うとこちらの方がメインになるかと思います」

「だから用事を済ませていた方が都合が良かったんだな」

「はい。そういうことです」

「じゃあ、早速帰ろうか」

「はい!」


 そう返事をした姫花は、今日一番の笑顔だった。

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