二章 初めての下校デート
二章 1話
姫花とのデートの翌日、いつものように教室に入った俺は、その浅はかな判断を早速後悔することとなった。
「お前、いつから水野さんと付き合ってたんだ!」
教室に入るとすぐに、クラスメイトのやつにそう言われた。
そいつは、クラスではそこそこ話す方の友達だったのだが、いきなりそんなことを言われるほど仲がいいかと言われればそうでもなかった。
「いや、いつからって……」
俺は、そんなクラスメイトにどう返すか少し悩んだ。
俺は確かに姫花と付き合っている。
しかし、それを俺が公言してもいいのかと言われると、躊躇いが生じた。
「どうなんだよ!」
「いや、ちょっと待ってくれよ。なんでまたそんな話になってるんだ」
俺はそもそもの根本を探ることにした。
聞いてきてるのはこの男一人だが、実際気になるのであろう全ての男子と、少し気になっている感じの女子が聞き耳を立てていた。
そして、恐らく職員室に質問しに行っているであろう姫花は、まだ教室にいなかった。
「昨日お前と水野さんが水族館に二人でいたのを見たやつがいたんだよ!」
「……」
なるほど。
思っていたよりも深刻な状況のようだ。
これに写真なんてものがあれば、もう言い逃れは出来ない。
と言うか、今の時点でもう噂は消えないだろう。
一度たった噂は完全に消えることはない。
それこそ、俺か姫花に別の恋人が出来たら話は別だが。
「なぁ、どうなんだよ、青凪!」
そいつは、しつこく迫るように俺にそう聞いてきた。
さすがに何も答えないというのはイエスと言っているような物だ。
何とか、せめて姫花が来るまで持ちこたえれれば……。
そう思った時、俺の後ろから願っていた人物が登場した。
「あ、水野さん!」
そう言って、今俺の後ろから現れた姫花にそいつが話しかけた。
「おはようございます。何か私に御用ですか?」
そう淡々と、しかし無愛想ではない返答をする彼女には、昨日の無邪気さは一切感じられなかった。
「昨日、水野さんと青凪が一緒にいる所を見たやつがいるんだけど、二人ってもしかして付き合ってるのか?」
捲し立てるように一息でそう言ったクラスメイトに、一瞬驚いたような表情をした姫花だったが、すぐに元に戻って優しく微笑みながらこう返した。
「はい。私と冬治君はお付き合いをさせて頂いております」
それと同時に、教室が静寂に包まれた。
そんな空気を何とか切り裂いたのが、さっきの男子生徒だった。
「えっと、マジすか?」
「はい」
その男子生徒の最後の確認に、そうキッパリと返す姫花。
それが受け入れられないのか今度は俺の方を向いて、嘘だよな?というような目で訴えかけてきた。
だから俺は、止めを刺すことになると分かっていたが、事実を応えた。
「ああ、本当だよ」
それを聞いた男子生徒は、一気に気力を無くして無の状態になった。
ふと横を見ると、その視線に気が付いた姫花が、ニコッとして見つめ返して来た。
それを見たクラスメイトは、一気に確信へと変わったのだろう。
もうすぐ授業も始まると言うこともあり、これ以上深く追求してくるやつはもういなくなり、みんな各々の日常へと戻っていった。
俺もその流れに乗りながら自分の席へ向かう。
ふと視線を感じ、その方向を向くと、姫花がいたずらっ子のような笑顔を向けていた。
「はぁ、これはやられたな」
誰にも聞こえない声でそう呟いた俺は、今後の不安を少し考えながらも、これも青春なのかもしれないと腹をくくることにした。
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