一章 2話
「おはようございます」
「あぁ、おはよう青凪」
おれは学校に着くと、校門に立っている生徒指導の先生に挨拶をして中に入った。
いつもしっかりと挨拶をしていたからか、俺はこの先生の授業を受けていないのに、名前を呼んでくれるようになった。
まぁ、名前だけは有名だからな。
顔と一致しないとよく言われるが。
そんな自虐的なことを考えながら俺は昇降口へと向かった。
靴を履き替えるために下駄箱を開けると、そこには一通の手紙が入っていた。
「またラブレターか?」
俺はそんなことを口にして手紙を手に取り、その場で封を開けた。
『冬治くんへ
今後の予定を話し合いたいので、放課後昨日の校舎裏まで来て下さい。
急がなくて大丈夫です。
あなたの彼女の姫花より』
ラブレターかと思われたが、それは彼女からの連絡の手紙だった。
「いや、これもラブレターか」
俺はそんなことを呟いて、手紙を鞄にしまった。
正直、こんな手紙を他の奴らに見られたら、それだけで学校中が大騒ぎになるだろう。それだけは避けたい。
「いや、待てよ……」
俺は嫌な予感がした。
こういう場合、翌日教室に入るとクラス全員が知っていて、質問攻めに遭うと言うのがテンプレと言うやつだ。
俺はそう考えると、教室に行きたくない気持ちがあったが、それ以上にどうなっているのか気になって、いつもより気持ち早歩きで教室へと向かった。
「おはよう、冬治」
教室に入ると、そこには普段と何も変わらない光景が広がっていた。
姫花の周りに数十人規模の人だかりができていて、後は大体仲良しメンバーで固まっている、といった感じだ。
そして、俺に挨拶をしてきたのがこの高校に入ってからすぐに仲良くなった、クラスで一番仲のいい
色素が抜けた感じの茶髪に、綺麗な黒色をした瞳。顔のパーツがとても綺麗に配置されており、普通にイケメンだ。
背丈は俺と同じくらいで、細身だがしっかりと筋肉がついている、完全なアスリートタイプだった。
実際、颯太は運動部に所属していて、確か……陸上部に入っていたはずだ。
べつにエースだと言うわけではないらしいが、少し前にあった体育祭では、圧巻の走りを見せていたので恐らく速い方であることは確かだろう。
「おはよう、颯太」
「どうしたんだ?なんかいつにもまして普通だけど、何かあったのか?」
「普通だったら何にもないだろ」
「それもそうか」
朝っぱらから意味の分からないことを言われた俺は、それを流してちゃっちゃと席に着いて別の話題を振った。
「それにしても、そろそろ期末テストだけど大丈夫なのか?」
「ん?そろそろって言ってもまだ一か月あるじゃねぇか」
「お前、何言ってんだ。テスト勉強は一か月前にはある程度終わらせておくのが原則だろ」
「なるほど。お前がなぜ首席なのか今分かった気がする」
そう言って、颯太はやれやれポーズをとった。
やれやれなんていわれる筋合いないんだけどな、俺。
そんなことは心の中でつぶやき、俺は溜息交じりに参考書を鞄から取り出した。
「ま、最悪みーちゃんに教えて貰うから大丈夫だ」
「お前な……」
俺は颯太に呆れてため息をついた。
みーちゃんというのは、颯太の彼女の
身長は低めで、でも小さすぎると言うわけではなく、その割には胸が大きめという、まあモテる女の子だ。
だから、颯太と付き合いだしたときは、男女から共に「納得だわ」と言われていたほどだ。
「ほんとはお前に頼みたいんだぜ?首席様」
「嫌だよ。今から教えるならまだしも、自分も追い込みに入っているときにお前に教えるなんて」
「だよな。その点、みーちゃんは嫌な顔一つせず教えてくれるからな」
「まぁ、恋人だからだろ。よく分からないが」
「まぁな。冬治は『恋』が分からねぇもんな。まぁ、仕方がないと言えば仕方がないが、彼女の一人くらいは作らねぇとな。幸いお前は結構モテるんだし」
「俺のどこがいいのやら。それに、俺は好きじゃない相手と付き合うのは、何だか相手の気持ちを弄ぶみたいで嫌なんだよ」
「そう言えばお前はそうだったな。まったく、さすが優等生様だ」
そう言って、少しからかってくる颯太に、黙れと言いながら、参考書を開いた。
基本的に、俺は颯太の話は聞くが、だからと言って普通に真面目に聞いていたら、それはそれは無駄な時間なので、さすがにそんなことはしない。
そう思って、参考書に目を落としたとき、颯太から衝撃的なことを言われた。
「じゃぁ、水野さんはどうだ?」
「……は?」
俺はあまりの突然な発言に、少し固まってしまった。
「え、大丈夫か?冬治」
「あ、あぁ。ただ、あまりにも急な話でびっくりしただけだ」
「そうか?普通の男なら、水野さんは憧れの的だろ」
「そういうお前はどうなんだよ」
「俺はみーちゃんしかいないからな。ただ、それでも綺麗な人だとは思うよ」
「そうかよ」
俺はそう返して、今度こそ参考書に目を落とした。
やっぱり、姫花は学年一の美少女なんだよな。
そんな女の子と付き合ってるだなんて、自分の口からは言い出せそうにもないな…。
俺はそんなことを考えながら、黙々と参考書を読み進めた。
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