第33話

 ちょっと開けた場所に出た。ボロボロの小屋がある。

「入る?」

 宮が聞いてくれる。私はさっきから足が重くてたまらなくて、途中でしゃがんでは立ち上がって、を繰り返していた。そのせいで、4時間くらいかかったけど半分も進めていない。というか、途中で崖沿いの道が土砂崩れしていたせいで大きく回り道したので進んでる向きが合ってるかすら分からない。

 ボロボロで朽ちているとはいえ、久しぶりの人工物は私を安心させてくれた。

「中が綺麗そうだったら、ちょっと休みたいかも。」


 木製のドアは鍵がかかっていなかった。蜘蛛の巣が張ってたけど、天井の隅にだけ。土間のコンクリは泥まみれだったけど、お尻がちょっと汚れるのを許容できれば……なんとか……。

 でも、腰を下ろして休みたいというのが勝った。

「今何時?」

 宮が聞く。私はスマホを開いて時間を確認する。

「18時45分。……そろそろ、」

 私は宮に押し倒された。背中が痛い。

「キスの時間だね。」

「……ん。」

 気付いたら、「同期」のことを「キスの時間」と呼ぶようになっていた。実際、私は私の中の寄生物がどうなろうが正直知ったこっちゃないし、宮も同期は大義名分で定期的にキスをしたいからなんだろうなあと思う。

 わかってる。私と宮の関係は戻れないところまで来ている。抱き合って、覆いかぶさって、濃厚なディープキス。これで互いに性的な感情を抱いてないわけない。

 ツー、と唾液が糸を引く。でも、今まではこれだけで我慢できてた。なぜなら、凪紗さんと御迦さんに隠れてしていたから。バレてないと信じてる。あの部屋に監視カメラとかがあったのなら死ねる。

 そう、ここには私たち二人しかいない。

 宮の手が私の胸元に伸びる。私も宮の腰に手を回す。

 再び、宮とキスをした。

 そして宮が口を開けた。

「あのね、さっき凪紗さんの薬飲んじゃったんだ。」

 さっき?……先に小屋の中を見てた時?

 宮に顎で示されて、気づいた。小屋の隅の方に空っぽの試験管が転がってる。

「まだ効果は出てないんだけど、なんか体の奥の方が熱くて。すごく繁殖したい気分。」

 繁殖。人間としてのセックスというより寄生主として個体を増やしたいということ……?それは十分効果が出てると言えるんじゃないか?

「繁殖、シていい?」

 宮が尋ねる。色々と聞きたいことがあったけど、でも、宮は可愛いしエッチな顔をしていたから。性欲は人を馬鹿にする。

 私の返事はキスだった。

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