第30話

 道なんだか、ただの森なんだか。そんな林道。

 暫く歩くと、すぐに元居た別荘は見えなくなって360度鬱蒼とした森の中。


「そろそろいいか。」

 と呟いた凪紗さん。やっぱり運動不足なんだろう、少ししか歩いていないのに汗だらけで息も切れ切れだった。いや、そうなるのも分かる。足場が悪いし、何せこう言ってる私自身も似たような状況だから。まだ元気そうなのは隣を歩いてる宮だけだ。

「よく聞いてくれ。これから私は別荘に戻る。でも、安心してくれ。御迦の様子を見たら戻るから。……でも、もしも。もしも私が戻ってこなかったら、君たち二人でこの道をまっすぐ進んでくれ。10キロくらい歩いたら山の麓の街に出るはずだから。それから……」

 凪紗さんは右手に持っている試験管に目を落とす。

「この試験管に入っているのは薬剤だ。本当は宮川宮の体と寄生物を適応させられるものを目指していたんだが……。時間が足りなかった。すまない。これは試作品で、寄生物の能力をさらに引き出すことができる……はず。名付けて、『朝倉凪紗のすごい薬』、だ。」

 テンションの落差に風邪を引きそう。

「……。とりあえず、『NAGI』とでも呼ぼう。」

 凪紗さんはその薬を宮に渡し、手を握る。

「これは本当に物凄い効力があると思う、たぶん。でも、副作用も物凄いかもしれない。何せ、そんなところまで試験してる時間がなかったから。……だから、本当にヤバくなってから使ってくれ。……もしかしたら、きっと、君たちの役に立つ。……と、思う。」


 それじゃ、と言い残して凪紗さんは来た道を引き返して行った。やがて背中が見えなくなり、歩く音が聞こえなくなり、私たちは二人きり。鬱蒼とした森の中に取り残された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る