第29話

 大学の校舎周辺は混乱していた。そのため、SNSの投稿で状況を確認しながら人が少なそうなところ、騒ぎが起きていないところを選んで移動しなければならなかった。

 そのため市街地を抜けるまで時間がかかり、なんとか凪紗さんの別荘まで戻ってこれたときには、もう深夜だった。眠い。腕が痛い。

 寝床と言っていいのか分からない硬いソファに横になると、私はすぐ眠りに落ちた。


 一週間くらい経った。

 この一週間は驚くほど短かった。私は何もしてないのに。

 凪紗さんと御迦さんはずっと地下室に籠って何かをしていた。何か、というか、恐らく宮についての研究実験だろう。詳しいことは教えてもらえなかったが、たぶんそう。凪紗さんたちの反応的にも、宮の様子的にも。


 一週間も経ったのだ。それだけ時間があれば、普通に考えて、行方不明の人間一人を見つけるくらいはできる。

 昼過ぎだった。凪紗さんたちが昼ご飯だけ食べに地下室から出てきて、カップラーメンを食べ終わって戻ろうとしたとき。


 玄関のドアをノックする音がした。

 凪紗さんも御迦さんも、宮も、みんな部屋の中に居た。ここの面子以外でここを知っている人間なんか知らない。その時点で、ドアの向こうに居るのが追手であると確定していた。

 もう一度、ノック音。4人とも硬直していた。

 ドアの向こうの人物が言う。

「開けてください。」

 知らない男の声。

 徐に動き出したのは凪紗さん。私と宮に付いてくるように促す。

「こっちだ。」


 静かに裏口の扉を開ける。家の裏手には誰も居なくて良かった。詰めが甘い。

 扉から出る直前、何やら口論している声が聞こえた。正面玄関の方。一人は御迦さんで、「みんな出掛けてる」の一点張り。その相手は二、三人の男のようで、ずっと過激な口調と声色だ。

「ここで待っててくれ。」

 凪紗さんはそう言って家の中に戻る。地下室に向かったようだ。すぐに戻って来て、帰ってきた凪紗さんの手には一本の試験管があった。

 でも、凪紗さんはそれについての説明はせず、

「早く行こう。」

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