Run!
思っていた通り。というのは、両方について。
どうやって大学に侵入するのか
凪紗さんの下手くそな注射のせいでなんか痛いし変な違和感の残る左肩を抑えながら、その左手で凪紗さんの手を引っ張って走る。左腕が無事だったらあの時みたいに凪紗さんを抱き上げて走れたんだろうか。否、あれは聡吏がチビでヒョロヒョロで――それから、聡吏だったから――それだったからできたことで。流石に左腕が無事だったとて無理だ。
私が先導して走っているが、大学構内を把握できてるわけじゃないので、凪紗さんに指示してもらいながら走る。
「次は?」
「えっと……そこの階段!」
そう、階段。凪紗さんと一緒だと数段飛ばして飛び降りるとか、そういう危ないことはできない。一段ずつ駆け降りるなら、確実に逃走する速度は低下する。要はより顔を見られるし(これは手遅れかもしれない)、動きが遅くなることで追いつかれてしまう。動き回り続ければ位置の共有に時間がかかることでまだ救いがある。
でも、仕方ない。ここは三階。だから――
だから、私はこうする。
窓を抉じ開けた。窓に手を掛けた瞬間、凪紗さんは小さく「え」と言っていた。
で、飛び降りた。凪紗さんを抱きかかえて。
「えっ。え、え、え?え?!えぇぇ?!??」
これは凪紗さんの悲鳴。こんな声出せるんだ。
勿論、何も考えず飛び降りたわけじゃない。三階だからせいぜい10メートルくらい。……だと思ってたけどこうして見ると20メートルとかありそうに感じるのは想定外。でも、壁の凹凸に引っかかりながら行けば減速できる……と思ってたけど想像より壁が平たい。それじゃあ街路樹に突っ込めばいいんじゃないか、と思ったけど街路樹なんて大層なものはなくて、背の低い生垣があるだけ。
正直に言う。早く逃げ出さないといけないと思って後先考えず飛び降りてしまった。ごめんなさい。凪紗さん、
「……んっ!」
変な声。力むのに慣れてなくて変なところから変な方向に声を出した時の声、だった。
私は、宮川宮の体は、無傷だった。
恐る恐る目を開けると、まず視界に入ってきたのはガンギマリしてるのかってくらい目をかっ開いている聡吏。怖い。やめてくれ。
そして、心配そうに覗き込んでいる御迦さん。
私と凪紗さんは、落ちて行ったところを聡吏と御迦さんに受け止めてもらったみたい。
「……生きてる?」
「少なくとも死んではいないみたいだね。」
聡吏、その問いは失礼だぞ。
「……はぁ……ひぃ。えっと、安心しているところを申し訳ないんだが早く逃げた方がいいと思う。」
息苦しそうにしてる凪紗さんが言う。その通りだ。
「走れ!車はこっち!」
「あっ、ちょっと、ちょっとだけ待って、」
凪紗さんは腰が抜けたのか1ミリも動けていなかった。
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