第20話

「知念聡吏さとり。……私と協力しないか?」

 知らない女に言われた。彼女は無表情で感情が読めない。膝の上の宮は相変わらず何も知らない寝息を立ててる。

「あの……どういう意味で……」

 人見知りを発揮してしまう。めちゃくちゃ小声になる。

「私は、そこの寄生生物について研究してる。」

 全くの無表情から放たれる、これまた抑揚の全くない声。何を考えてるのか分からなく怖くて、思わず宮の髪を握る手に力が入る。

「……ああ、ごめん、何もその……宮川宮、でいいのかな。彼女を誘拐してどうにかしようなんていう、知念教授みたいなことをしようとしてるんじゃない。」

「パパとは違うの……?」

「うん。彼とはライバルみたいなもんだからな。こないだの論文も一分先越されてマジ死ねよって……ああ、ごめん。……まあ、そういうわけで君のお父さんとはめちゃくちゃ仲が悪い。」

 「マジ死ねよ」なんて言ってる割にはさっきからずっと眉一つ動かさず無表情だし、お経でも読んでるみたいに抑揚がない。変な人だ。

「彼とはその寄生生物に関しても立場が食い違っててね。彼は危険な生物だから排除しろって立場で、私は何か共存する方法を探ろうとしてる。」

「宮を助けてくれるんですか……?」

「うーん、助ける……のかな。とりあえず知念教授に見つからないように保護はしようと思う。」

 私は大きな岐路に立たされているんだろうな、と思った。このまま私たちだけで逃げ回ってても、女子高生二人でできることなんてたかが知れてるし。どうせすぐ捕まる。それは分かってたことだった。

 どっちが宮のためになるのか。そんなのわからないけど、でも、

「協力……します。」

「うん、そうか。早速だがヘリの音が聞こえるかな?あれはメディアのやつだ。それに、公園の門の裏にも機動隊が居る。」

「……………………え?」

 

 直後、「突入!」という掛け声と同時にテレビで見たのと同じ格好の機動隊が公園に入ってきた。

 また、それと同時に公園に軽自動車が突っ込んできた。機動隊員たちが轢かれそうになってる。

 車のドアを開いて顔を出したのは金髪のギャル。

凪紗なぎさ、早く!そっちのあんたも!」

 奥の方から「何してるんだ!」とか怒号が聞こえる。

「私も手伝おう。」

 凪紗とか呼ばれてる彼女はこんな状況なのに相変わらず無表情のまま、宮の足の方を持ってくれた。慌てて宮の両脇を持ち上げる。……重い!やっぱり人間を抱えあげるなんて無理なんだ、宮がおかしいんだ。

 急に動かされて起きてしまったのか、ちょっと目を開いて「ん~?」とか言ってる宮をなんとか後部座席に放り込む。機動隊員が突っ込んできたちょうどそのタイミングで、ギャルが思い切りハンドルを切って軽自動車は発進した。

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