第18話
鬼のような形相で入ってきたネカフェ店員。私も宮も硬直した。
「お客さん!何して……あれ?その顔どっかで……」
店員の視線がパソコンに移る。パソコンにはあの記事が映ったままだった。
ゆっくり宮の方に視線を戻した店員。
「……ぁ……うわぁぁあああ!!」
店員が腰を抜かして逃げ出した。途端に店中から聞こえだすどよめき。
「……えっと、」
「何やってんの!逃げる!早く!」
宮は振りかぶっていた拳をほどき、私の手を引っ張る。
「どうしよう!延長料金払えてないかも!」
「そこ?!絶対今それどころじゃないでしょ!」
手を引っ張られてると宮の顔は見えないが、さっきまでの雰囲気が嘘みたいに明るい声だった。なんか怖い。
宮の顔を確認されるたびに一定確率で悲鳴を上げたりスマホのカメラを向けたりする人々。
「オラオラオラァ!寄生されたいんかぁ?」
なんて宮が言うたびに勝手に道が開けていく。なんで楽しそうなんだ、この人。いや、中身は人間じゃないんだが。
料金未払いのままネカフェを飛び出し、大通りを駆け抜けた。
宮のせいでめちゃくちゃ注目される。人の目線を集めるってのが今までなかったのと、宮と手を繋いでいること。それらが相乗的に働いてくれて、信じられないくらい顔が熱い。
十字路を曲がり、裏通りへ。宮から始まった混乱が伝播し、駅前の一帯は騒然としていた。人々はわけが分からないまま混乱していて、誰も私たちに見向きもしない。
誰もこっちを見てないのがだんだんわかってきて顔の熱さも冷めてきた。しかし、今度は走りすぎたことでまた暑くなってくる。
「み……宮、ねえ、ちょっと……私、ちょっと…………むりかも、」
宮はめちゃくちゃ足が速くて、彼女に手を引っ張られている私もめちゃくちゃ速く走らされていた。私は私の実力以上に速く足を動かしていて、今にも足がもつれて転びそうだった。否、そう思った時には既に足がもつれていたのだ。
でも、倒れる前に宮が私の腕を引っ張って抱き起してくれて。宮と目が合った時に王子様みたい、なんて思ったのは内緒。
「あーもう、仕方ないなあ。」
王子様みたい、というより宮はほんとに王子様だった。違うな、私がお姫様にされたのだ。私は宮に抱え上げられて。俗にいうお姫様抱っこってやつ。
「ちょっ、やめ、下ろして!恥ずかしい!」
「だってコケるじゃん。」
宮はそのまま走っていく。私を抱えてるのにめちゃくちゃ速い。
「重いでしょ?私も走った方が絶対……」
「聡吏、軽すぎない?もっとちゃんと食べた方がいいよ?あ、胸がないからか。」
「うるっせえ!!」
慌てて逃げ惑う人、スマホを構えて私たちを撮影しようとする人、訳の分からないことを叫んでいる人。これら全てが宮川宮……いや、この寄生生物を発端としているのだ。そしてこの真ん中で私は宮と一緒に居る。変な感覚だ。
やがて駅前のビル街から出て、周囲の景色は戸建ての立ち並ぶ住宅街へ。それに伴って人の密度も一気に低くなった。
ここまでくると駅前の大混乱は伝染していないみたいで、道行くおば様方は「元気ねえ」みたいな顔でこっちを見てるだけ。それでもお姫様抱っこされてるとこを見られて恥ずかしいことには変わりないのだが。
住宅街の中を右往左往走り抜け、知らない裏道を通り、野良猫を驚かせながら狭い路地を何本も駆け抜け、小さな公園に出る頃には完全に人々の注目を振り切っていた。
この公園は馴染みがある。記憶が正しければ、私たちが初めて会ったのもこの公園だった。
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