第17話
心地よい目覚めだった。でも、宮が伝えてくれたのは最悪の状況だった。
「……り…………さと………………さとり!」
宮に叩き起こされた。(文字通り、頬を叩かれた。)
「……っ、…………ふにゃぁ?」
寝起きで変な声が出ちゃった。宮があまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、私もいつの間にか寝てたみたい。
って宮のせいにしてみる。
「どう?お目覚めは。」
なんかちょっと楽しそう。Sか?
「……ぼちぼち。」
「そ。ところで、これ見てよ。」
話題の切り替えが速いな。
宮が示したパソコンの画面には某ネットニュースサイトの記事が映っている。なんだか見たことがある顔写真、聞いたことのある名前。
なになに?……宮川宮?生態不明の寄生生物……人間に寄生……?
寝起きだからうまく頭に入らないのかな。3回くらい繰り返し読んでみた。
「……ヤバいじゃん!!」
「急に叫ばないでよ。うるっさいなあ、もう。」
「っ、だって、だって、コッ……これって……」
「まあ、その……ちょっとヤバいかもしれないけども。」
宮は頭掻きながら言ってて。
「どっ……どうすんの?!こんなにはっきり顔写真出されたらもう……」
宮の答えは。
「あっ、ほら、このコメント見てよ。『この子かわいくね?』だって。はは、ちょっと嬉しいかも。」
「みや!」
宮は黙り込んでしまった。
「……宮。」
私と目を合わせてくれないまま、ぽつりと呟いた。
「この記事ちゃんと読んでみて。ここに出てるのは私の……宮川宮の名前だけ。」
……?何を言おうとしているのか理解できない。
「私さ、絶対にあんたのこと言わないから。」
何を……何がしたい?
「あんたの中の私は未活性状態だから、同期しなければあと丸1日程度で完全に死滅する。今ならまだ……」
許せなかったんだ。宮を。
これだけ宮のために動いてきたのにそれが水の泡になるような選択をされた。そういうのもあったけど、それ以上に自分が犠牲になればいいって言いたいみたいな行動が許せなくて。
手が出た。
宮のお腹のあたりを思い切り殴ってしまった。
「ッ、ぐうっ……、」
みぞおちにクリーンヒット。宮のふくよかな胸部でも受け流せない衝撃。
宮はお腹を押さえて床に倒れ込んだ。
「あっ……ごめん……」
「……っつ~。……だっ……だいじょぶ。あんたのヘナチョコパンチなんか痛くも痒くも……うっ、オェ……」
ごめんっていう感情もあったけど、それ以上に。こんなにはっきり目に見える「空元気」は初めて見た。そんな宮を見てるとむしろ怒りが溢れてきて。
「……今ならまだ、私が実験台になるだけで済むから……」
蹴った。なんとか全力を出さないように自制したけど、それでも床に転がってる宮の体が10センチ動くくらいは力が入っちゃってた。宮の口から変な液体が飛び出した。
「あのさあ……そうじゃないの。そうじゃなくて……!」
宮を抱き起こそうとしゃがみ込んだ瞬間、襟を引っ張られてバランスを崩す。宮に床ドンしてるみたいな恰好になってしまった。
それでようやく宮と目が合った。宮の両目からは涙が溢れていた。
「分かってんだよ。お前の言いたいことなんて百も承知なんだよ。でもさ。……でもさ、この状況でどうしろってんだよ。もう終わりなんだよ。現実見ろよ知念聡吏!!」
宮に腹を殴られた。みぞおちにクリーンヒット。
「…………~ッ、うっ、おぇ、ああぁぁぁぁあ!」
あまりの痛みにのたうち回る。
今度は宮の番。宮は私の上に馬乗りになって固く握った拳を高く振り上げ、
そこまで。
感情が高まった私たちはあまりにも暴れすぎた。扉が開く音がしてそっちを見ると、とんでもない形相の店員が立っていて、
「お客さん!何して……あれ?その顔どっかで……」
やばい。
とても、やばい。
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