第16話
さっきまであんなに泣いたり叫んだりしていたのに、宮はもうすっかり静かになって黙々とポテト食べてる。宮の感情はジェットコースターみたいだ。昨日の夜は何も食べれなかったし今朝もコンビニのパン二個しかもらえなくてお腹が空いてるって言ってた。
「……ほんと、どうしようかねえ。」
一人で山盛りポテト一皿ペロリと平らげて、口の端に着いたケチャップを指で拭き取っている宮。あれ、もうポテト完食したのか。
「どうするって……なんか考えてないの?」
「んー、とりあえず逃げ出そうってくらいしか考えてなかったからなあ。宮川宮として日常生活送るのはきつそうなら、最悪この体は捨てるってのも思ってたけど、もうできないしなあ。」
「……なんで?」
「……秘密。そういえばママとパパがどうなってるか分かってないな。スマホも取られたから連絡取れないし。でも家に帰るのは危険かなあ……。あ、会計はお願いね。」
そう言いながらちょっと高めのハンバーグとか注文しようとしてるし。
「ちょっ、宮も払えよ!」
「だってスマホと一緒に財布も取られたし。仕方ないね。」
「そう言う割には遠慮なく注文してるじゃん。」
「だって、無趣味で使う先がないモンが財布の中にたんまり溜まってるんだろ~?財布から諭吉さんが顔を覗かせてたの見てたぞ~。」
「なっ、無趣味なんてそんなことは……」
「お金あるのは否定しないんだね。じゃあ一安心。」
実際、お小遣いは溜まる一方で財布がはち切れるのは時間の問題と思っていたのは事実だ。宮がそれなりに豪遊しても割と余裕をもって払えるくらいはある。
結局、何の結論も出ないまま宮も私も昼食を終えていた。
結構食べちゃったな。全部私が払うのに宮にばかり高くておいしいやつ注文されるのも嫌だったから私も結構食べちゃった。
さて、午後一時を過ぎて段々と人通りもまばらになってきた。人の目が少ない、即ちパパたちも動きやすくなってきたということ。油断はできない。
長く滞在できて、かつ人目に付かない場所。暫く駅前のネットカフェでこれからのことを考えがてら休もうって宮に言われた。もちろん料金は私持ちで。
「宮、これからのこと考えるって言っても……」
荷物を置いて宮の方を振り返ると、宮は机に突っ伏して寝ていた。部屋に入ってから一分も経ってないのに。こうして見るとかわい……
全力で頭を振って途中まで出た思考を吹き飛ばす。何を考えてるんだ、私は。相手は同性だぞ?いや、それ以前にこいつの中身は人間ですらない。その先に行けばもう戻れなくなる。気がする。
だから、というのも違うが。寄生生物のくせに人間みたいに睡眠が必要なんだな。なんて逆張りオタクみたいな方に思考を持っていく。でも体は宮のものだから睡眠は必要だな。……なら仕方ないのか。
負けてしまった。負けた?自分で勝手に勘違いして勝手に間違ってただけだ。一人でずっと。馬鹿らしい。
でも、結論から言うと、私は宮に負けた。それは事実だ。
宮の無防備な寝顔はあまりにも魅力的だった。ネカフェの個室はとても静かだった。誰も私を見ていなかった。宮の口から零れた涎が机に落ちそうだったから。
私は薬指でその涎を拭うように掬った。宮の瞼は1ミリも動いていなかった。だから……というわけでもないが、その薬指を口元に持っていき。
気づいた瞬間、私は顔が熱くて仕方なかった。
あれ?これくらいどうってことないはずなのに。今までしてきたあの「同期」に比べたらどうってことないはずなのに。なのに、恥ずかしくて、嬉しくて、ニヤニヤが止まらなかった。
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