escape

 考えられるところは全部潰してきたつもりだった。森から出るときに寄生させた奴らも居たけど、彼らと宮川宮が繋がりそうな証拠は消してきた。宮川宮がやらかした殺人も、少しでも宮川宮に繋がることがなくなるように顔面とか個人を特定できる部分を削ぎ落してバレないようにしてきた。ホモ・サピエンスが想像以上に多いから寄生者を広めるのは慎重にやる方針にしてきたのに。慎重になりすぎたか。

 宮川宮の体を借りている以上、宮川宮以上の知識はない。所詮は一回の女子高校生なんだ。科学技術を駆使して追ってくる大人たちには勝てなかった。

 とりあえず、何とかしてここを脱する方法を考えよう。一番簡単そうなのは……

「ねぇ!トイレ行きたいんだけど!……おーい!」

 扉を叩きながら叫ぶ。

 外で数人の男の声がした。暫くして扉の鍵が開く。

「付いてきてください。」

 そんなに寒い季節でもないのに長袖長ズボン。手袋までしている。その程度で寄生されないとでも思っているのか。


 三人の男に囲まれて歩くのはなんだか偉くなったような気がして悪くない。

 薄暗い廊下を歩いて案内されたのは女子トイレ。構造からすると、どこかのビルの地下とかかしら。

 後ろを付いてくるようなムーブだったので、

「あの……女子トイレですよ?」

 って言ったら三人で顔を見合わせてからトイレの前で待ってくれた。監視は案外ザルだな。


 さて、ここからどうしよう。

 とりあえず用を足しつつ確認してみたが、トイレにも窓は無かった。やはり地下で確定か。

 ならばと思って換気口を探る。すぐに換気口は見つかったが、しかし、2メートルくらいの高さで登れないし狭すぎる。頭だけならなんとか捩じ込めたとしても肩の辺りでつっかえそう。仮に入れる大きさだったとして、あんなに蜘蛛の巣と埃まみれのところを通るのは御免だ。

 さあ、詰んだぞ。


「……なあ、遅くないか?」

 トイレの前で待っていた三人のうち一番童顔なメガネが呟いた。

「そうか?」

 一番背が高くて痩せてるのが頭を掻きながら返した。

「大きい方してるとか?」

 全体的に丸いメガネが欠伸しながら言った。

「そうかなあ。小さい方の音しかしなかったけど。」

「……お前、耳いいな。」

 丸いメガネが童顔メガネに蔑んだ目線を投げかけている。

「なんだよ、その目線。ほら、あの……ちゃんとアレの行動把握しておかないといけないだろ?仕方ない。それに、万が一があったら教授怖いし。」

「そうだそうだ。つーかよ、アレって普通に女の子として扱うもんなのか?」

 背が高いのが童顔メガネを擁護する。耳クソをほじりながら。

「確かにそうだな……。でも、アイツ可愛いし俺は中身が中身でもイケるわ。」

「まあ可愛いもんな。」

「うん。それは認める。……寄生されたくないけど。」

 くだらないところで三人の意見が合った。そんなときだった。


 ドン、という音が廊下に響いた。それと同時にトイレのドアが蹴飛ばされる。

 ドアの目の前に立っていた童顔メガネは開いたドアに弾き飛ばされ、蝶番の側に立っていた痩せノッポはドアと強烈なキスをした。無事だった丸いメガネは驚いて硬直したままで、トイレの中から宮川宮が飛び出してから数秒してから叫んだ。

「逃げた!追いかけろ!」

 しかし、ノッポは鼻をさすっているし童顔メガネは痛そうにおでこを押さえているし、誰も動かない。


 逃げた方向に階段を見つけることができた。運がいい。あの三人に捕まらずに走り出せたことを含めて。少なくとも、袋小路に逃げ込んで詰むことだけは回避できたみたい。

 宮川宮の体力は優秀だった。これだけ全力で階段を駆け上っても息は切れないし足ももつれない。特に理由もなくやらされていた階段ダッシュが生きたんだろうか。


 あの扉の向こうが外だろう。鍵がかかっていないと良いが……。

 金属製の重そうな扉。ドアノブに体重をかけてこじ開けるつもりで駆け寄った。

 が、その直前でその必要はなくなった。扉の向こうの人物が開いたのだ。

「宮ちゃん……と呼んでいいのかな。」

 彼とは、彼の家族とは昔からの知り合いだ。アイツ――知念ちねん聡吏さとりの父親、知念聡流さとる。寄生生物を専門で研究してるとか、そう聞いていた。

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