第5話
翌日、宮は普通に登校してきた。
いつものメンバーと会話しているが、遠くから聞いている限りだと知らないタレントの話に夢中で宮の休んだ原因だとか宮の違和感だとかは気にされていないようだ。宮の話し方もかなり良くなっていて、抑揚で感じる違和感は無くなっていた。記憶は引き継いでいるらしいからその点ではボロが出る不安はない。……あの調子だったら大丈夫かな。
って、何を考えているんだ。アイツは正体不明の寄生生物を自称している。その目的もよく分からない。実際、少なくとも一人の人間は殺されているのだ。そういえばアレがなんだったのか分からないままだ。……いや、もうあれについて考えるのはやめよう。二度と思い出したくない。
とにかく、脅されているだけで、あいつを心配してやる義理なんてない。私が心配するべきは……そう、本物の宮の安否。と、人類の安寧。
実際、私はあの宮のことが嫌いではない。長いこと誰とも会話していなかったから、会話できただけでちょっと好きになってしまっているかも。認めたくないけど。
だって、宮と仲が良かったのは10年以上前までだし、それからの10年では宮との会話は数えるほどしかない。新しい女のほうを好きになってしまう、そんな人間なんだな、私は。嫌になる。
昼休みのチャイムに起こされる。よく寝た。授業中の昼寝ほど甘美なものはない。席替えで後方の席を引き当てた者の特権だ。
昼休みの高校は、ぼっち学生が最も浮く時間だと思う。友達の居る人間は皆机を寄せ合って固まって昼食を食べる。私は昼食をともに食べる友達など居ないので、一人で食べる。でも、こんな生活も慣れればなんてことはない。慣れてしまった、というか。
鞄から弁当を取り出そうとしたときだった。
「ねえ、ちょっといい?」
顔を上げて声の主を確認して顔がこわばる。宮川宮である。
「先生が呼んでるよ。」
嘘だ。絶対。先生に呼ばれるようなことなんて何一つ心当たりがないし、そもそもこのタイミングで宮が声をかけてくるのがそういうことなんだろう。
「ほら、早く。」
宮は教室の外を指して催促してくる。
仕方ない。ここは学校だし、正体がバレてはいけない彼女は下手に動けないはず。多分、大丈夫。
宮が人に見られていないことを確認して入っていったのはトイレ。手を引っ張られて私も中に入る。そして、二人で一番奥の個室に入る。
「なにするつもり?ここ学校だよ?」
「学校だとどうなの?」
「だって、人がいっぱい居るんだよ?バレたらヤバいんじゃないの?」
「……じゃ、ここはトイレだから大丈夫だね。」
「えっ、ちょっと、何?」
宮は私の頭をがっしり掴む。私はもう動けない。
デジャブを感じる。これは……。
「静かにしてよ、見つかっちゃう。」
宮の顔が近づいてくる。
柔らかい唇の感触。私の唇が宮の唇と触れ合っている。そして、以前と同じとびっきりのディープキス。
もう息が続かない、というところで終わらせてくれた。と思ったら、もう一度。5回くらい?宮の唾液が大量に私の中に入ってきたし、多分私の唾液も大量に宮の中に入った。
頭がぽやぽやして変な感じ。
「何なの、これ……?」
宮は口の周りの唾液をぬぐってから言う。
「同期。あなたの中の私と、私の。私が学習した内容を伝達するのとあなたの中の私の情報を読み取る。それじゃ。」
宮は出て行ってしまった。
これがどういう感情なのか分からない。頭がうまく動かなくて、そのまま30分くらい動けなかった。
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