第2話
宮の家は私の通学ルートに面している。そのため、毎日のように彼女の家の前を通る。こう言うとストーカーみたいだが、実際そうなのだから仕方ない。
もし家の中の宮と目が合ったらちょっと気まずいし、相手がそう思わなくても私はそういう状況は嫌なのでできるだけ足元を見ながら歩く。宮の部屋は二階で道路に面しているらしいから、もしかしたら窓から見られていることがあったかもしれない。
でも、一回くらいなら。宮が体調を崩したなんてこと今まで聞いたことがない。心配だし、ちょっとだけなら。少し視線を上に向けるくらいなら不自然なことないだろう。
そんなふうにぼんやり言い訳を考えて、私はその窓に目線を向けてしまった。
目が合ったのだ。カーテンの隙間からこっちを見ている人影と。
すぐにカーテンを閉められてしまったし、私は視力が良くないので誰だったのか断定はできない。宮だろうか。しかし、宮だったとすれば雰囲気が違ったような。
彼女の家の二階で道路側に面している窓は一つだけ。あれは確実に宮の部屋の窓だ。宮の部屋からこちらを覗いてきた人影が宮でない可能性は低い。逆に言えば、あれが宮である可能性はとても高い。
なんだか怖くなって、でも急に走り出すのは不自然に思われるだろうから、私は自分にできる最速の早歩きでその場を去った。心臓が言うことを聞いてくれない。ぬるくて気持ちの悪い汗が溢れて止まらない。
久しぶりにあそこに寄ろう。
私は嫌なことがあったとき行く場所がある。そこで何も考えず横になっていると全部忘れられる。気がする。
細い路地の奥。この先に、「秘密基地」と呼称して幼い頃の宮と遊んでいた場所がある。そこは特に広くもない空き地で、窓が面していないため誰からも見られる心配はない。ただそれだけで特に何かあるわけでもないのだが、自分達しか知らない秘密の場所というそれだけで、その頃の私たちは楽しかった。
ところが、久しぶりに秘密基地にやってきた私の目に映ったものは以前とは全く違うものだった。いや、地形的なものは全く変わっていない。雑草が生い茂っている空き地というのは変わっていないのだが、ただ、以前はなかったモノがあった。
人間の死体である。
全身の肉が削ぎ落されたり引き裂かれたりしている上に四肢と胴体がバラバラになっているので元の形が見えない。服も見当たらないのでもし知っている人物だったとしてもこの状態じゃ誰か分からない。
私はそれを確認してすぐ回れ右、180度向きを変えて走る。とても怖かった。すぐに忘れて関係なかったことにしたかった。
二個目の曲がり角を曲がったところ、あと少しで路地から出られるところで私は向こうから歩いてきた人間とぶつかった。勢い余って私は彼女を押し倒す格好になり、向こうは尻もちをついてしまう。
相手の顔を確認して私は硬直した。
宮だった。
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