第3話
尻もちをついた宮は私をじっと見つめている。宮は何も言わず、私も何も言えない。
長い静寂だった。私は沈黙を打開するための話題を出すとかいうのが苦手な人種だ。必死に何か話そうとしてみるが、口が小さく動くだけで私の口が言葉を紡ぎ出すことはない。宮も何も言わないまま私を見つめているだけだ。その表情からは感情を読み取れない。
こんなにまじまじと宮の顔を見るのは久しぶりだ。だいたい……10年ぶりくらいだろうか。こうして見ると、みんなが口を揃えて言うように宮の顔は良い。パーツのバランスが取れているし、一つ一つの造形も良い。昔も整った顔立ちだとは思っていたが成長してより洗練されたように感じる。
この状態が永遠に続けば良い。何も起きなくていい。そう思う。
しかし、沈黙が破られる。宮が口を開いたのだ。
「会話するのめちゃくちゃ久しぶりだね。」
「あっ……うん。」
駄目だ。話題が終わってしまった。会話力が不足しすぎている。
「なんでここに?」
宮に聞かれて、私は再度硬直する。血の気が引くサァッという音が聞こえるような気がした。
「いや……なんでもない。」
「どうしたの?顔色悪いよ?」
心配そうな顔をしてくれるが、アレのことは絶対に言えないし言いたくない。でも、そんなことを思っていると詳細なソレを思い出してしまい、
「…………ウッ」
私は吐いた。
尻もちをついた宮の上に馬乗りになった状態だった。私が吐いたものは思い切り宮の洋服に掛かる。しかも、3回。
しかし、宮は嫌な顔一つせず私を抱き留めて背中をさすってくれる。そして耳元で囁く。
「アレ、見たの?」
心臓が止まるかと思った。
「……え……あ、アレって何?」
「見たんでしょ?嘘吐くの下手だね。」
私の背中を撫でながら囁く。優しい声なのに、恐怖しか感じない。
「……はあ。」
大きなため息を吐いて、宮は私と目を合わせる。すごく、顔が近い。というか、顔が近づいてくる?
気づいたら、私の唇と宮の唇がくっついていた。必死に離れようとするが、宮にがっしりと掴まれているため頭は1ミリも動かない。テニス部でそれなりに鍛えられている宮に運動不足の私は敵わない。
唇と唇が触れ合った、それだけでなく、宮の舌が私の口の中に入ってくる。宮の舌が私の口の中でうねうねと動く。アニメやドラマでも見たことがないほどの濃密なディープキス。宮の唾液が私の口の中を満たす。吐瀉物の酸っぱい味が宮の味で上書きされる。
「……ぷはっ、はぁ、はぁ……」
心臓が鳴りやまない。耳が熱い。宮の吐息の音と心音がすぐ近くにある。
「うちに来てくれる?」
私は小さく頷いた。
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