第6話 鎌倉幕府を後100年延命させる方法(その4)

 では、ヒストリー・ミステリー第3話その4を始めよう。


 * * * 


 念の為、鎌倉が何故滅びたのか、それについては、本書その1を参照して欲しい。

 では、解説開始!


 * * * 


・『琉球出兵』とその手順

 まず、『国書』を携えた使者を『琉球王国』へ送る。

 『国書』は、下記の三か条から成り立っている。

 1つ、『琉球王国』は、『幕府』の『属国』になる事

 1つ、『琉球王国』は、『幕府』から派遣された『琉球奉行』の命令に即時完全服従する事

 1つ、『琉球王国』は、『姫』を『鎌倉』に、嫁がせる事

 何れか1つでも、従わない場合、以降何が起ころうとも、『琉球王国』が全責任を負う事。

 -以上-

 更に、使者には、こう言って貰う。

「元が攻めて来ると知った時の事だ。実は、とても期待したのだよ。何故か分かるか。

 否、答えは聞いて無い。いいかね、戦に置いて強者を屠って武勲を挙げる事は、名誉だ。

 そして、鎌倉殿は、より大きな武勲を挙げた者を、お褒めになり、恩賞まで下さるのだ。

 私も、元との戦で武勲を挙げてみせる。そう期待していた。だがなぁ、あれはいかん。

 あいつらは、雑魚ばかり。雑兵など幾ら斬っても武勲……名誉にならん。

 たかが、4万人と、数を揃えただけだった。恩賞も貰えず仕舞い。実に残念だった。

 7年の時を経て、再び彼奴等が攻めて来る。そう聞いた時、今度こそ、そう思い馳せた。

 しかも、今回は、20万の大軍勢だと言う。期待したのだよ。

 だが、蓋を開けてみれば、所詮だった。雑魚は、4万でも20万でも変わらない。

 その事実を、再確認しただけに、留まった。

 で、貴公、貴公の軍は、20万の元より『強い』のか。

 もし、腕に自信があるのなら、闘うつもりは無いか。強者との戦は武人の誉だからな。

 で、国書への返答や如何に?」


 ん? これで、上手くいくのか。そう聞いたのかね。

 私の予想では、『琉球国王』は、震え上がるだろうと考えている。

 実際に、目の前にいる『この男』が、元の軍勢を斬りまくった。その確証はない。

 が、元は、大敗を喫し生還率をまともに数える事も、能わずの体たらくだ。

 それが、事実であり、現実であり、真実だ。

 時に、知っているかね。『琉球王国』の軍事……それも、兵数はいか程かだ。

 詳細は不明だが、人口自体は、数万人らしい。仮に5万人としよう。

 つまり、男は2万5千、成人であれば、1万5千人となる。

 負けてるじゃないか。

 元は、『4万』だぞ。彼我の兵数差は、『約3倍』だ。

 しかも、これは、サトウキビ畑を耕す農民や、老人も含めて、一切合切徴兵した場合だ。

 勝てる訳ないだろう。

 もし、『琉球国王』が、『4万』の情報を獲得したら、軍事の責任者に尋ねるだろう。

「元が、『4万』の兵を持って、日本侵攻を企てている。同じ規模の軍を差し向けられた場合、君なら如何にして、この国を守るかね?」

 もっともな疑問だ。が、状況は、『絶望的』に他ならない。諦めが肝要だ。

 それを、鎌倉の武士達は、撃破した。あいつらは、化け物か。そう思うしか無いだろう。

 更に、この風潮に『追い風』が、吹いていた。

 正確な数字も不明な生還兵が、戦争の内容を報告した。その内容がねぇ……

「鎌倉武士は、『化け物』だ。あんな強いなんて聞いて無い。勝てる訳が無い。」

 と言う具合に、異口同音に、ひたすら鎌倉武士を持ち上げていた。

 何故か。

 当たり前でしょう。もし、自分達の作戦判断ミスがあった、などと認めたら?

 そりゃ、『処罰』の対象になるでしょう。

 だったら、『敗戦』の『原因』は、『鎌倉武士』に、『なすりつける』。

 これは、『自己保身』だ。その為、全ての生還兵が、同じ事を言ったのだ。


 ん? 『神風』?

 ああ、その話しか……

 そもそも、その話しが『正確』に『琉球王国』へ伝わった可能性は、限りなくゼロに等しい。何故か?

 先程も、説明したが、『生還兵』は『自己保身』を、しまくっていた。

 結果、『正確』な『情報』が、伝わらなかったのだ。

 これが、2回目の元寇で、『20万人』と言う常軌を逸した『大兵力』に繋がった。

 『神風』などと言う『正確』な『情報』を知っていたのは、『現場』の武士だけだ。


 とは言え、『もしも』が、あるかもしれない。そこで、対策を講じた。

 使者には、こう言わせればよい。それも、最大限見下した調子でだ。

「あなた、ひょっとして、『あの日』『あの時』『あの場所』に、嵐が現れたのは、『偶然』だと思っているのですか。『本気』で?」

 これで、『琉球国王』は、鎌倉殿が、『何時』でも『任意の場所』へ『嵐』を発生させる事が、可能だ。そう『解釈』してくれる事、請け合いだ。

「はったりだろ!」

 そう指摘する者もいよう。だが、世の中には、『強い』事より重要な事がある。

 それは、『強い』と言う『評判』だ。


 いいかね、『行列』ができるレストランとは、何だ。

 それは、『美味しい店』か。

 否、『美味しい』と『評判』の『店』だ。

 だから、雑誌やTVで取り上げられただけで、行列ができるのだ。

 そう言えば、同じ事を某料理漫画でも言っていたな。握り寿司をCTスキャンした漫画だ。


 しかも、日本は、『元』が差し向けた『20万人』を撃破したのだ。

 この情報は、他国を震撼たらしめるに、十分だろう。故に、勝算が高いのだ。

 では、次に『琉球』を『属国』にしたらどうするか。それを語ろう。

 まずは、『朝貢貿易』だ。


 * * * 


 コラム1『朝貢貿易』とは。

 これは、帝政時代中国の、伝統的な『外交政策』だ。

 これは、漢隋唐宋……など国名が変わっても、伝統的に実施されていた。

 具体的には、土産を持参した周辺国の使者を迎え入れ、『皇帝』の前で『臣下の礼』をさせる。更に、周辺国の土産を遥かに凌駕する返礼を返す。

 これは、『皇帝』の財力権力が、如何に優れているのか『思い知らせる』事が目的だ。

 ちなみに、『遣隋使』や『遣唐使』と言う言葉を知っているかね。

 それらも、やはり『朝貢貿易』に他ならない。

 しかも、この際に、『留学生』を随伴させる事も可能だ。

 更に、『留学生』の『学費』や『生活費』は、全て皇帝のポケットマネーから出される。

 至れり尽くせりなので、皆こぞって中国大陸に渡ろうとしたものだ。

 尚、味噌の作り方や、もやしの育て方、お茶の入れ方、急須など、中国大陸で発明された物は、全て『遣隋使』や『遣唐使』などの『朝貢貿易』で、伝来した。

 そう言えば、足利義満も『朝貢貿易』をやっていたな。

 その時は、『御朱印船貿易』と呼んでいた。

 尚、清国は、英国とも『朝貢貿易』をやった。

 結果、英国人は、清国を『ウマシカ』だと解釈した。

 これが、後に『アヘン戦争』に繋がったのは、皮肉としか言いようがない。


 * * * 


 で、『琉球王国』は、『元』の『属国』にさせ、『朝貢貿易』させる。

 その利益の『九割』を、『鎌倉』に差し出させる。

 まぁまぁ、言いたい事は、分かる。だが、まだ続きがあるのだ。暫し待て。

 更に、民間貿易だ。『サトウキビ』や『砂糖』を生産可能なのは、『琉球』だけだった。

 そこで、来年から『砂糖』の販売価格を『2倍』にする様、『琉球』に命令する。

 更に、『砂糖』の利益の『半分』を、『鎌倉』に差し出させる。

 勿論、販売先の最大手は、『元』だ。これで、幕府の財政も潤う。

 『元寇』で、恩賞を与えられなかった御家人にも報いる事が可能だ。

 勿論、『お金』で支払う事になるがね。

「何てえげつない。『恫喝』した上、『搾取』するのかよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの紙面に存在しない。

 更に、2年後には、『3倍』にさせ、利益の3分の2を、『鎌倉』に差し出させる。

 更に、3年後には、『4倍』にさせ、利益の4分の3を、『鎌倉』に差し出させる。

 更に、9年後には、『10倍』にさせ、利益の10分の9を、『鎌倉』に差し出させる。

「Dirty Deeds Done Dirt Cheap

(いともたやすく行われるえげつない行為)」

 賢明なる読者諸君の「えげつない……」は、「Dirty Deeds Done Dirt Cheap

(いともたやすく行われるえげつない行為)」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某大統領とも無関係に相違ない。

 ちなみに、9年後の『10倍』が、限界だ。

 これ以上値上げしても、売れなくなるのが関の山だ。


 * * * 


・『インドネシア出兵』とその手順

 次は、インドネシアだ。

 ここは、中国と、インド貿易の中間点として、古くから栄えていた。

 時代によって、呼び名は変われど統一王朝があった。

 そこで、ここでも『琉球王国』と同じ手を使う。

 これで、利益は『2倍』になる!


 * * * 


 こんな所だな。

 尺もいい頃合いなので、そろそろ締めよう。

 では、また……


<続く>

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