第48話
「オレたちは湖側だから、また後でな」
「俺たちはバンガローなんで横に調理スペースのタープ張るだけから用意できたらすぐ行くよ」
キャンプ場は湖畔のテント場と山手側のバンガローに分かれている。
美弥さんと大知さんは先日の初対面からのこの旅行までの一週間もしっかり連絡を取り合っていたようだ。キャンプは前準備も大事だからね。
美弥さんと大知さんはリアカーにキャンプ道具を満載にしてぎこちなさもなく、二人協力しながら湖の方へ歩いていく。
「なんだろうね、あの二人」
「初心すぎる美弥さんとワイルドな大知さん……。合っているのかいないのか?」
「でも仲良さそうだし、やっとお姉ちゃんにも春がきたのかな? 夏真っ盛りだけど⁉」
「ま、あっちはあっちでということで、俺たちもバンガローに向かおうよ」
バンガローなんて言うとなんだかすごそうだけど、言うならば木造の物置小屋のようなもの。とはいっても、薄いテントの幕よりは頑丈なので雨天のときなどの安心感は格段の違いだ。
「山だからね。夕立とかあるかもしれないからコッチのほうが美穂には安心だと思うよ」
最悪、美弥さんが強い夕立などを怖がったら俺が美弥さんの使うテントに入って美弥さんをこっちのバンガローに退避させるのもありだと思っている。
「もう! あんな姉さんにまで優しいなんて! 真司くん、好きっ」
だから、美穂は美弥さんに対して辛辣すぎるって!
「だっていつもめちゃくちゃ私のことをからかってくるんだもん!」
そういうことね。じゃ、しょうがないかな?
バンガロー内で寝床を用意したり、タープを張ったりの用意を終わらせた後に美弥さんたちのいるテント場に俺と美穂はやってきた。
「大知さんは……。あ、あそこだ」
大知さんのソロテントはすでに設営済み。その横で美弥さんが一人で四苦八苦しながら俺が貸したテントを一人で設営している。
「どうしたの、大知さん。なんで美弥さんは一人で?」
「いや、美弥さんは一人で設営してみたいって言うからやってもらっているんだ。おんぶにだっこじゃないのは素晴らしことだよな」
美穂もだけど頼りっきりにしないというのは、紫崎家の教育方針なのかもしれないな。
「美弥さん、手伝いましょうか? 俺のそのテントは二人用なのでちょっとおっきいんですよ」
美弥さんが一人でこのテントを張るのは大変だと思う。俺はソロ用テントだと狭すぎて辛いので二人用以上でないと足か頭が、ね。それに女性が使うなら幕の透けもやや防止できると思って美弥さんに貸すのをダブルウォールのやつにしたのだけどそれが仇になってしまったかな?
「ああ、やっぱりそうなんだ。吉田さんのと比べてなんだか大きいなとは思ってたんだ。でも吉田さんに教えてもらいながらここまでやったから最後まで一人でやり遂げたいの」
その後のタープの設営はさすがにモノが重いので四人でやった。大きいコットン混は焚き火にも強いし日差しも遮るスグレモノ、らしい。俺には手が出ない――重量物の運搬的にも金銭的にも――ので大知さんに聞いた話だけど。
「これで多少の雨が降っても大丈夫だ」
「今夜は夕立があるみたいだからこれがあると安心できますよ、美弥さん」
「そうなんだね、真司くん。もし怖くなったお姉ちゃんは吉田さんに傍にいてもらうから大丈夫なんだってさ」
「へー、じゃあ大知さんよろしくです。美弥さんも無理はなしってことで」
「お、おう」
「は、はい」
俺も美穂も半分冗談で言ったつもりなんだけど、当のお二人は本気に捉えたようで……。
もしかして本当に?
あれこれと必要なキャンプ道具を並べ揃えたら早めに管理棟にあるシャワー室で汗を流し、夕飯を作る。
作ると言っても昨日のうちに俺が用意して冷凍して持ってきたハンバーグを大知さんが熾した炭火で焼いて、途中の道の駅で買った野菜などを煮込んだシチューと市販のバターロールって感じなんだけどね。
「真司くん、夕焼けを見ながらの食事って最高!」
「だな! 美穂。でも反対側には真っ黒い雲があるからあれがこっちに来るとちょっとやっぱり夜は雨になるかもな。星空は、今夜は無理だなぁ」
楽しい夕餉も終わり、ド定番のマシュマロ焼きのデザートも食べ終わり、すっかり片付けが済んだ辺りで上空には黒い雲。少し遠いところには雷光も見えている。
俺と美穂が泊まるバンガローはこのテント場より直線でも三〇〇メートル、道なりでは五~六〇〇メートルほど離れている。間に谷があるので迂回しなければならないんだよね。山道なんでなんやかんや十分から十五分はかかる。
「じゃ、俺たちは戻ります。もし、美弥さんがどうしてもダメだっていうなら俺と場所交換でいいですから言ってください。俺が迎えに来ますから」
初めてだとテントで大雨降られると怖いんだよね。バンガローならまだ平気だろうと思うけど。
「ありがとう。吉田さんがいるから大丈夫だと思うけど、何かあったらよろしくね」
「ちゃんと美弥さんのことは見ておくから、お前も安心しておいてくれ」
大知さんも美弥さんを守ってくれると言ってくれたので俺も美穂も安心した。
「では、また明日……の一四時ぐらいで」
食後にちびちびお酒を飲みながら楽しそうにしている二人をテント場に残し俺たちもバンガローに急ぐ。
俺と美穂は、明日は近くの見晴らしのいい低山に登る。低山と言ってもすでにキャンプ場の標高が一五〇〇〇メートルだから山の頂上は二〇〇〇メートル超ぐらいにはなるんだけどさ。
美弥さんと大知さんは明日、管理棟でやっているワークショップと湖の散策。その後は大知さんのアウトドアよもやま話をしながらのんびりと過ごすそうだ。そっちもすごく良さそう。
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