第43話
美穂が思案顔のあと聞いてきた。
「そのアルバイトって私もできないかな? 重い箱は降ろせないけど箱を開封して中身を確認するのぐらいなら私でもできない?」
夜になって父さんが家に帰ってきたところで聞いてみたら、美穂も雇ってもらえるみたい。
もし美穂がいなかったら、そこの企業の会長(おじいさん)または会長婦人(おばあさん)が記録を取りに来るつもりだったらしい。
もうひとり美穂が来てくれるのならありがたいと泣く勢いで件の社長さんには感謝されたって!
※
「なあ真司……」
期末考査一週間前に妙に大人しい感じで俺のところにやってきた陽平。
「またか?」
「すまない。俺と希海を助けてくれ、このとおりだ」
俺を拝んでどうする?
まずは自助努力をしろよな? ただ授業を寝ずに聞くだけでもだいぶ違うんだぞ?
「そ、そんな事言わずに! 施ヶ内センセイっ、お願いします!」
「大げさだなぁ。俺も美穂もどうせ試験勉強はするからまた図書室で一緒にやればいいだろ?」
「ありがとう! 心の友よ! 希海にも伝えてくる!」
「……なぁんだ。いつもの陽平だわ」
期末考査は試験科目も増えているしその範囲も広いので、一口に試験勉強と言っても過酷さは中間考査とは比べ物にならない。
このバスケ部の二人にとっては特に。
なんていったものの俺と美穂はこれと言って過酷とは思っていない。ちょっと範囲が広くて面倒だな、って程度。
陽平も希海さんも中間考査では一年のときの学力順位を五〇位以上上げたと言うから驚きだけど、順位キープならまだしも大きく落としたらバスケ部の顧問に何を言われるかわからないとふたりとも戦々恐々としている。
俺は中間では美穂に一つ順位で負けたのが悔しいので今回も頑張って試験勉強に打ち込んでいる。つもり……。
家に帰ると真奈美の試験勉強も見てあげているから少し抜けてしまうかもしれないけどやれるだけのことはやっておこうと思う。それにしても美術と保健体育って筆記テストする必要あるのかな?
※
あっという間に四日間の期末考査が終わったけど今回は打ち上げはなし。陽平と希海さんは夏季大会に向けていきなり猛練習となるんだって。
バイトは明日からなんで久しぶりに美穂とかなえを連れて駅前のハンバーガーショップで駄弁る。
「え~ おにいちゃんたちがバイトでいないとなると図書室はどうなるんっすか?」
「ん? 普通に誰か来て開けるんじゃない? 図書委員は他にもいっぱいいるし」
「一応先生にも言っておいたからどうにかするよ、たぶん。ね、真司くん」
「そうだな」
俺たちがそこまで義理立てする必要もないだろうしね。
「ふ~ん。そんなもんすか」
「そんなもんすよ、かなえ」
その後は試験の手応えとか夏休みの予定とかをあれこれ話しながら時間は過ぎていった。
………。
……。
「ううう、ずるいよ。おにい」
「なにが?」
「高校生活が充実しているがずるい! ウチも加わりたい!」
「おまえが入学したら一緒に駄弁れるだろ?」
「え? ウチも加わっていいの⁉」
「当たり前だろ。いいから早く飯くえよ」
「えへへ……。おにい……大好き!」
「?」
※
期末考査明けの金曜日。今日も普通に六時限みっちり授業がある。
いくつかの試験結果も返ってきてまずまずの点数に安心した。向こうに見える陽平も落ち込んだ様子はみられないようなのでそこそこ成績はキープできそうなのだろう。
今日から一〇日間バイトだ。気合を入れすぎてヘタれないように気をつけよう。
来週いっぱいで夏休みに突入する。その前に梅雨の明けたクソ暑い中で球技大会などをやるようだけどそういうのはそういうのに気合い入れる勢におまかせすることにする。
俺や美穂はそんなことよりもバイトである。二人で合わせてお給金弐拾萬圓也が七月末にはいただける。プラスアルファのボーナスも一人五万とか父さんに言われたので卒倒しそうになった。
『嘘だろ?』
『いや、あそこの社長には世話になっているし、だいぶ儲けさせてもらっているからな。うちの会社はお前たちを使って恩を売って更に一儲けってつもりなんだよ。一〇万ぐらい安い投資だぞ?』
そんな感じだ。バンガローなんてケチらないでコテージ、いやグランピングも余裕じゃないか?
いや、趣旨が変わるのでバンガローにするけどさ。
美穂が行きたいっていた北海道ももしかしたら行けるんじゃない?
「本当にいいのかな? 私は箱の中身を確かめてメモを取ってまとめるだけだよ?」
「そこの社長さんていう人は金払いがいい人らしく、価値のあるものには惜しみなくコストをかけるんだってさ。それだけ期待されているってことだから頑張ればいいだけなんだって」
「そっか。じゃあ、期待に応えて頑張るよ!」
今はその仕事場へ向かう前に一旦俺の自宅に帰っている電車の中なんだけど、美穂はまたつい先日も持ってきていたキャリーケースを横に携えている。
「それ、着替え?」
「そう、着替え」
「一日分?」
「う~ん、三日分ぐらいかな? 遥さんが洗濯すればいいから大丈夫って言ってくれたんだ」
ん? んん?
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