第41話

「ううう。眠い。眠いよ……」

「そこは俺もな」


 教室の自分の席に座って眠い目をこする俺たち。


 昨夜はいつ寝たのだかは定かではないけど、相当深い時間帯まで愛を確かめあっていたに違いない。そうでなければ、ここまで眠い訳はないと思う。

 これは授業内容が頭に入ってこない以前のレベルでまずいのかもしれん。


 SHRまで時間があるな。


「美穂。自販機でコーヒーを買ってくるけど要るか?」

「ふえ? にゃに?」


 美穂は一瞬寝ていたようだ。少しだけだけど美穂は寝かしてあげよう。コーヒーも買ってこよう。要らなければ俺が二本飲めばいいんだ。この眠気じゃ二本でも足りないかもしれないけど。


 開かない目をなんとか開けて自販機の置いてある学食前にたどり着く。脳の栄養砂糖とカフェインがたっぷりはいっていそうなやつを二本買って教室に戻る。



 途中、朝練が終わったからか、未だ制服でなくジャージやスポーツウェアのまんまの生徒がウロウロしているのを見かける。


 そんな中の一人、いや、二人に目が留まる。

 陽平と希海さんだ。


 二人の距離は友達っていう距離ではなかった。もう遠目には触れ合っているようにしか見えなかったし。


「いや。普通にボディータッチしまくりじゃん」


 陽平は希海さんの肩に手を置いているし、希海さんは陽平の胸に手を当てている。


「あれ? もう付き合っている感じなのかな?」


 ここんところ俺が事件に巻き込まれたり、一方の陽平は試合があったりとゆっくりと話す機会が減っていた。


(ちょっとこれはちゃんと聞いておかないとな! 美穂にも報告だ)



 教室に戻ってみると美穂はすっかり夢の中。ニヤニヤしながらよだれを流し出しているのは美少女としてどうなのかな、とは思うけど可愛い俺の彼女なのでまったく問題にはならないんだよ。


「なにはともあれ、起こさないとね」


 揺すったり声をかけたりしたけどなかなか美穂は起きなくて担任が教室に入ってくるほんの数秒前にやっと目を覚ましてくれた。




 お昼休みを睡眠に極振りしたので午後はお目々パッチリ、頭もスッキリです。お昼ごはんは美穂特製の梅干しおにぎりだったので空いた時間でこっそりいただきお腹も満足です。


 放課後、HR前に陽平に声をかけておく。


「陽平、ちょっと聞きたいことがあるんでHRが終わったら図書室に来てくんない?」

「え? さっきの授業のことなら俺に教えられることは無いぞ⁉」


「ん、分かってるから。そう言うんじゃなくて――」

「じょーだん。俺も話しておきたいことがあるから行くよ。ちょっと遅れるかもしれないけど待っていてくれ」


「りょ。じゃ」

「じゃ、あとで」




 放課後の図書室。今日も俺と美穂しかいない。かなえは、今日はバイトの日だと言っていた気がする。


「このあと陽平が来るから」

「なんで? なにか問題でもあったの?」


 美穂には今朝、俺の見た陽平と希海さんの様子について話していない。話しそびれたと言うべきかな? 教室に戻ったら美穂は爆睡中だったからね。


「ん~ ちゃんと聞いていないのに推測でものは言うべきじゃないけど、陽平に春が来たのかな、って思ってね」

「あ、希海ちゃん?」


「そんな感じ」

「へ~」


「だから、まだ推測なの。今から来るからちゃんと聞いてそういうことなら、お祝いしないとかなってさ」

 陽平も大変だったからな。お祝いって言っても口頭でおめでとうって言うぐらいなんだけどね。


 ガラガラ……。

 図書室のくせにやたらとうるさい引き戸が開いた。


「うぃ~っす。真司ぃ~ いるかぁ~っているな。美穂ちゃんも」

「こんにちは。おふたりともお久しぶりです」


 陽平とその後ろから希海さんが図書室に入ってきた。


「うっす。待ってたよ。で、話なんだけど――」

「おっと、そのまえに俺が話す。えっとな……」


 話すって割には言葉がつっかえているな。希海さんが陽平の腰辺りをツンツンつついている。


「まぁ、俺たち。俺と希海は付き合うことになった……。以上」


 やけにあっさりしているなって思うけど、陽平と希海さんの顔を見たらそれ以上は要求できないよ。だって、ふたりともこれまで見たこともないぐらい真っ赤になっているんだもの。


「希海ちゃん、おめでとう」

「ありがとう、美穂ちゃん。ボクたちも美穂ちゃんたちみたいにラブラブになるからね!」


 俺たちは他人からみてそんなにはラブラブしていないと思うんだけどな。一応自制して度を越さないようにはしているつもりだけど?


「最初だけな。本当に最初だけ。あとはもうやりたい放題で見せつけ放題だぞ、お前らは!」

「「まじか⁉」」


 美穂とハモってしまったよ。やっぱ気が合うね! ちょっと美穂と見つめ合ってしまった。


「ほら、そういうところだ。お前ら本当に自覚が無いのかよ? はあ」

 陽平にため息はつかれるし、希海さんはキラキラした目で見てくる。


「ところで、……この週末お前ら何かあったか?」


 ‼ え? は?


「え? な、なにが? と、特になにもないけ……ど?」

「本当かよ。まあいちいち聞くと砂糖をぶちまけられそうだから聞かないけどな」


 いや、聞かれても何も答えるつもりはないですよ⁉

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