第40話

「…………ぬぉ⁉」


 居眠りしてしまったようで、目を開けた瞬間屋外だったのでびっくりした。


 となりを見ると美穂もすやすや眠っている。最初は木陰だったのが、今少し日差しを浴びている感じになっていたせいで寒くもなく気持ちよく寝てしまったようだ。




「ねえ、お兄ちゃんたち何してるの?」

「ねえねえ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人なの? ちゅ~するの?」

「パパが言ってたけど外でイチャラブするのをあお……あおか? えっと忘れちゃったぁ~」

 いつの間にやら数人の小学生に囲まれていた。


「あっ、へ? 君たちは誰かな?」

若干一名やばいこと言いそうの子がいますけど?


「僕たちは一年三組のしぜんかんさつ五はんの四人です」


 小学校一年生の自然観察会をやっているらしい。今日は日曜日だよね? あっ、授業参観的な?

 あぁ、なるほどなるほど。


 四人の子どもたちは慌ててやってきた親御さんと見られる大人四人の方々に連れられて行ってしまった。


「ふぃ~ おはよ。あれ? わたし、なんで外にいるの?」


 お寝ぼけさんが目を覚ましたのでお昼ごはんにした。せっかくきれいに詰めたのにさっき走ったので偏って固まっていたのはご愛嬌としか言いようがなかったね。

 でもやっぱり美穂の握ったおにぎりは最高だったので無問題です!



 ※



 遊水地からの帰りはゆっくりだったので今はもう午後四時過ぎ。まだまだ明るいけど、少しずつ雲が増えてきてまだ梅雨のさなかなんだなと思った。今日も美穂が泊まっていくし、お昼のお弁当でも食材を使ってしまったので帰りしなに近所のスーパーに立ち寄ることにした。


「うふふ」

「楽しそうだな」

「楽しいよ。一緒にお夕飯の買物なんてもうテンション上がっちゃうもんね。だって、あれみたいよ、あれ。えっと『隣の部署の近藤さん』で主人公の北町くんと近藤さんが初めて一緒にお買い物して北町くんのマンションに行くシーンみたいでしょ?」


 それは俺読んでないからわかんないや。今度貸してくれよ。


「も~ 読んでおいてくれないと困るなぁ~ あはは」

 手を繋いで一緒に買物。


 しかもデートじゃなくて日常的な買い物、夕飯のおかずの買い出し。


 美穂が言いたいのは特別なデートじゃなくて、生活感のある日常がとても嬉しいってことなんだろうな。『隣の部署の近藤さん』は読んでいないけど多分そういった可愛らしい恋物語なんだと思うんだよね。


「美穂は今日、何食べたい?」

「むぅ」


 えっ、なんで不機嫌なの?


「それは私の言いたいセリフなの! もうっ」

「あ、そうなんだ。ごめん」


 よくわかんないけどセリフは譲ります。はいどうぞ。


「では。コホン。真司くん、今夜は何食べたい? もしかして、わたし?」

「……はい。いただきます」


 おっと。素で答えてしまったぜ。俺たちの横を通り過ぎていったおばさんがぎょっとして振り返るほどにね。


「冗談はさておき、真司くん、何が食べたいかな?」

「う~ん」


 もう頭の中は『わたし』しか浮かんでこないけど、それは食後のあまいあまいデザートなので考えてはいけない。となると……?


「う~ん。今日はいっぱい歩いたから、今日も肉が良いな。肉……肉……。あっそうだ、ビーフエンチラーダなんかいいかも!」

「び、ぶーふふぇらち?…………………なにそれ? 知らないんですけど?」


 えっと、一瞬危なかったような。ビーフエンチラーダは、メキシコ料理だっかたな?



 結局、夕飯はハンバーグとお味噌汁になりました。

 とっても美味しかった。食べるのがもったいないと箸をつけなかったら怒られたよ!





 浴室の照明は消して、洗面所にある洗面台の明かりだけにして二人でお風呂に入る。昨日から何度も裸体は見たし見られているけど恥ずかしいものは恥ずかしいんだよね。


「どうしよう。今が幸せすぎて明日から別々に夜を過ごすなんて耐えられないかもしれないよぉ」


「そうだな……。このまま一緒にいたいよな」


 でもそうはいかないのくらいは分かっている。まだ高校生。小説みたいに一人暮らしして彼女が転がり込んでくるなんて都合のいい話はどこにもないんだよな。


「でも真司くんはマナちゃんが帰ってくるから大丈夫でしょ? 寂しくないもんね?」

「ん? なんで真奈美?」


「だって、マナちゃんと真司くんいつもラブラブでイチャついているんだもん。夫婦みたいだよ⁉」

「いや兄妹なんだけど? イチャついてはいないだろ?」


 実の兄妹でイチャつくとかちょっと気持ち悪いっす。おっとかなえは妹(偽)だから気をつけないとな。


「うそだよ。マナちゃんいつも『おにいが優しい』とか『おにいはかっこいい』とかあんなことしてくれたこんなことしてくれたっておノロケメッセージを私に送ってくるんだよ? それに一緒の家に住んでいるなんてホントずるいよ!」


 俺は背中側から美穂を抱いていたんだけど、彼女はくるりと器用に回って俺と向かい合わせになる。目が慣れてきているのでいろいろがはっきり見えてしまいますよ?


「だけどね……。こんなことをできるのは私だけなんだからね……」


 美穂は正面から俺に抱きつき貪るように俺の唇を奪い、舌で口内を蹂躙してくる。

 真奈美に嫉妬(?)して俺を虜にしたいらしい。

 もうとっくに美穂しか見えていないんだけどね。


「なあ、風呂はもういいから、ベッドにいかないか?」


 頷く美穂。


 明日はふつうに授業があるけど、授業内容は今からもうなんにも頭に入ってこないだろうってことは確定したようなもんだな。

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