第39話

「昨日の雨で湖が溢れたりしていないよね?」

「そこまで長い雨じゃなかったから溢れちゃいないでしょ? でも芝生とかは濡れているかもな。レジャーシートは無理かな?」


 ベンチもあったようだったから、もし昼時まで地面が濡れているようだったら芝生は諦めてもいいよな。ピクニックだと芝の上にレジャーシートを敷いてってのがイメージだけど。



 二人でお弁当を作り、作りながらのつまみ食いが遅い朝食の代わり。見た目は可愛げがないけど密封容器におかずをわんさかと詰め込む。手作りもいいけど早く出かけたいので冷凍モノも使いすぎない程度には活用した。


 あとは美穂特製のおにぎり、な。

 特徴がよく出ていてかたちが三角じゃないけど、これは慣れだからね。見た目よりも、美穂が握ってくれたという方が断然大事。これは断言ですよ!



 弁当とレジャーシートは俺の真っ赤なバックパックに入れた。リュックの容量が無駄に二〇リットルもあるのでスカスカ。念の為の折りたたみ傘とタオルを数枚入れておく。美穂も飲み物ぐらいは持ちたいというので押入れの中に入れっぱなしだった俺の某有名アウトドアブランドのヒップバッグを引っ張り出してきて飲み物を入れて装着してもらった。腰にしっかりとホールドさせると負担が少なくていいんだよね。今流行ってないみたいだから仕舞っちゃったけどさ。これ、両手が空いて便利なのにな!


「これすごく楽だし色々入っていいね! 私も欲しい!」

「そうなの? じゃあ、それあげるよ。俺のお古で構わないなら」


 女の子がヒップバックしているとかわいいな。いや、美穂だから可愛いのかもしれないな。


「えっ? ほんとに! やったっ、ありがとう。大事にするね」

「おう、ちゃんとしたアウトドアブランドのものだからガシガシ使ってやってくれよ」



 家から遊水地までは田んぼ道を通って多分四キロほどと思う。調べたこと無いんでわからないけど感覚的にね。美穂も歩くのが俺ほどじゃないけど早いんで四〇~五〇分ぐらいで着くのかな?



 到着して早々に俺の認識が間違っていたことを知った。案内看板にはやたらとの文字が踊っていたんだ。基本的に遊水地のいつも水が溜まっているところを湖と称しているらしい。知らんかった。

 地元なのに……。


 さて、ピクニックに適しているのは今いる場所のを挟んだ反対側のようだ。


「あっちまで行くか? 疲れていないか、美穂」

「ぜんぜん疲れていないよ。いいね、ここ。景色最高! アッチまで行くとちょうどお昼頃になりそうだからいいかもね!」


 まだ美穂のことはキャンプとか登山には連れて行けていないけど、たぶん連れて行っても大丈夫だろうな。虫が顔に止まっても騒ぐことなく手ではらっているから虫のたくさんいる夏キャンも問題なしだね! この夏はキャンプデートかな?


「暑くもなく寒くもなく気持ちいいね! あっ、釣りしている人がいるんだ」


「わー‼ 自転車でビュンビュン走るのも気持ちよさそう!」


「カヌーだよ! 私初めてみた! すごく気持ちよさそう! 私も乗りたい!」




「美穂ってアウトドア派だったっけ?」

「ううん。図書室とか自室で一日中本を読んで過ごすぐらいインドア派だよ。お友達にメイク用品とかお洋服を買いに行くのを誘われるのも面倒だなって思うくらいのインドア派だよ」


 それお友達には絶対に言わないようにね⁉


「それなのにいますごくアウトドアなことばかりやりたいって言っているよね?」


「当たり前じゃん! 真司くんはどっちかと言うとアウトドア派だし、やっぱ一緒にいろいろと体験したいじゃない? 大好きな人が好きなものって興味持っちゃうのは仕方ないよ! もうっ、恥ずかしいな!」


 そいうととっとっとっと美穂は走って行ってしまう。

 俺はと言うと、あまりの嬉しさにその場で棒立ち。


「どうしよ。むっちゃ美穂が可愛いんですけど! どうしよ~ まてぇ~」


 追いかける俺、走って逃げる美穂。ただそれだけなのにとても幸せな気分。青春群像小説『アオハルとタソガレ』の一場面のようだ。













「ぜいぜい……」

「ぜいぜい……」


 息が上がった。ふたりとも木製のベンチに座って荒い息を整えるのに忙しい。


「な、なんであんなに走ったん……だ?」

「だ、だって……真司、くんが、追いかけて……くる、から、はぁはぁ」


「ひ、ひとりで……あんなに遠くま、で走っていかれたら追いかける、だろ?」

「そこは……なんともいえないわね。はあはあ……。ふう」


 美穂はインドア派とはいえ自宅でトレーニングは欠かしていないようで球技系スポーツは上手くはないけど体力はそこそこあるんだよな。でも……走ることは無いだろうに。


 ちょうど目的地にしていた芝生広場まで走ってきたので、もう近くにある木陰をキャンプ地にすることにした。つってももう動きたくないんで、キャンプ地で飯食ってゴロゴロしていたい気分なんだよな。


 二〇〇〇×二〇〇〇のでかいシートを持ってきたので余裕で寝転べる。汗をかいて熱くなった身体が地面に冷やされて気持ちいい。


 二人でごろ寝だ。あちらこちらで小学生が遊び回っているようで賑やかなのもいい感じだ。

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