第38話
窓の外は叩きつけるような雨。遠くの方では稲光が光っている。まだ夕方五時前なのに日が落ちたように外は暗い。
「うわ~ すごい雨だね。雷もピカピカだよ」
「さっき天気予報で言っていたとおりだな。今夜は荒天なんだって」
「へ~ 今日はお泊りで良かったぁ」
「そうだな」
……………?
え?
なんだって? お泊り?
「お泊り?」
「うん、お泊り。お母さんにも許可もらったから大丈夫。許可っていうかメッセージでも書いたけどがんばれって……えへへ。うふっ、身体一つで来ました。今夜は……あの……よろしくね」
とても恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めて美穂がよろしくと願う。
今朝、自分の部屋を掃除していたときに一瞬頭をよぎったことが現実となったみたいだ。
あのときも筋が通るなって思ったけど俺の勘違いだと決めつけて全否定していた。でももう一度今日の美穂の行動を考えてみると、筋が通るどころではなかった。全部そこに通じている。美穂のお母さん、美園さんはそっちもちゃんとしてくれれば構わないって方針だったな。ああ、そうか。そういうことか。なるほど……。
って感心している場合じゃないな!
とはいえ、ここでヘタれたら男が下がる。
別に下がってもいいんだけど俺は嫌だなって話。美穂がアプローチしてくれているんだから応えたいじゃん、やっぱ。
「俺の方こそ、あの。よろしくな」
お互いによろしくと言い合うのはものすごくおかしいとは思うけど、俺と美穂的にはなんだか自然な感じで違和感なく通じ合うんだよね。
※
夕飯は軽く済ませて後は寝るだけみたいな体制になった八時過ぎ。寝るには流石に早すぎるけど、けっこう緊張してきた。
外で吹き荒れる嵐は更に激しさを増していてまるで台風が来ているかのようだ。
本当ならこのままイチャイチャを始めたいところだけど、今家に俺しかいないのだからこの家に何かこの嵐で起きたら大変なので、この先の天候の予測だけはネットで確かめておく。いまの時間、天気予報の放送時間じゃないからテレビじゃ情報がつかめないんだよな。
それにテロップだらけのバラエティーなんて見たくもないのでテレビはとっくに消してあるんだ。
「真司くん! これからもっと雨も風も強くなって、雷にも注意だって! さっきから雷がピカピカからゴロゴロに変わっているなって思っていたんだよね~」
「美穂は雷がダメな方?」
「恋愛小説的女の子だったら雷が怖くてきゃーって男の子に抱きつくところなんだろうけど、残念ながら、私は雷にはそれほど恐怖を感じて――」
ピカー‼
どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん‼‼
落ちた。
照明も消えて真っ暗になった。
停電だ。
俺の胸には柔らかくていい匂いがしてとっても可愛くて愛おしい美穂が抱きついていた。
「どうした? 雷は怖くないんじゃなかったのか?」
「うぅ……。いぢわる。本当は怖いもん……。抱っこして、真司くん」
時折光る雷光で照らされた足元に気をつけながら美穂をお姫様抱っこして部屋まで連れて行く。
停電はすぐに回復したようで、冷蔵庫のモーターの唸り声がかすかに聞こえてきた。リビングの照明はリモコンでONにしないと消えたままなので放置。
ふたり無言のままベッドに……。
窓を叩き続ける雨音と雷鳴に俺たちの声はかき消されて誰にも聞こえていないだろう。
雷光に照らされ、見え隠れする重なり合うふたり……。
ただ、俺たち、お互いの囁きだけは吐息の一つでさえも聞き逃していなかった。
※
翌朝。昨夜のことが嘘のように晴れていた。
今日こそが梅雨の合間の貴重な晴れ間のようだ。
昨夜はふたりとも一糸まとわぬ状態で眠りについた。素肌と素肌が触れ合うのってくすぐったいけどすごく心地が良いもんなんだな。癖になりそうだ。
「ん……おはよう、真司くん」
「おはよう、美穂」
昨夜の余韻に浸かりながら長いモーニングキスをする。
「だいじょうぶ?」
「なにが?」
「よく痛いって言うじゃない? 美穂はだいじょうぶかなって」
初めては血が出たり出なかったりと千差万別らしいが概して痛いなんて話はよく耳にする。
「少し違和感はあるけど痛くはないかな。真司くんが優しかったせいだよ」
「そんな事言われちゃうとまたしたくなっちゃうだろ?」
「えへへ……。いいよ。しよ」
その後お風呂も一緒に入って最高の朝時間を過ごさせてもらいました。
※
「なあ美穂」
「なぁに?」
「今日、帰っちゃうんだよな?」
「えっ、帰らないよ。せっかく二人きりで過ごせるのにもったいないもん。私、ちゃんと制服も持ってきたらか月曜日は一緒に登校できるよ」
今夜は俺一人なのかとふと思って聞いてみたら予想外の答えが返ってきた。もう困惑などなく、ただ嬉しいと思うだけ。キャリーケースは流石に学校には持っていけないので一ツ崎駅のロッカーに預けていくそうだ。
「じゃあ、今日はなにをしようか?」
「えっちなことはまた夜ってことで、昼間はお弁当作ってピクニックに出かけようよ」
朝からはしちゃったけど丸一日は俺でも無理ですから。無理じゃなくてもしませんよ!
「じゃあ、H駅の向こう側の湖の周りが遊歩道だからそこに行ってみようか?」
「ここらへんに湖なんてあったっけ?」
「ただの遊水地だよ。よく知らないけどなんとか湖って確か名前がついていた気がする」
多分誰も湖名では呼んでいなかった気がする。遊水地って呼んでいたし俺もそれしか呼んだ記憶がない。ま、どうでもいい話だけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます