第33話

 平常運転に戻ります。

 星とハートのおねだりはやめません! キッパリ!

 *****


 再度ラウ10の送迎バスで戻ってきて一ツ崎の駅で解散とした。


「じゃ、また明日ね。真司くんよろしくね」

「おう、待っているから気をつけて来いよ。今日の帰りも気をつけて」

「うん。今日は駅までお母さんが迎えに来てくれるってことだから大丈夫だよ。じゃ、みんなもまたね!」


 明日は美穂が俺んちに来る予定。特別にデートするでもなく俺が美穂にアウトドア料理を庭先で教えるとかする予定。両親も今週は在宅だし、真奈美もいるのでイチャイチャは控えめに……。


「「「「バイバイ」」」」

 

 陽平と希海さんも自転車に乗り換えてさっそうと去っていった。


「さて、俺たちも帰るか?」

「うん。かなちゃんもバイバイ」


「うん、ばいばい。あっ、バスが行っちゃった……」

 乗るはずのバスが出発してしまったのか? なら……。


「次の来るまで一緒に待ってやるよ。マナもいいよな?」

「そ、そんなっ! 悪いっすよ!」


「かなちゃん、おにいのことは気にしなくたっていいよ。いつもこんなんだから」

「やっぱ、やさしいっすね……」


 なんだよ、そんなの当たり前だろ? 毎度毎度褒めてくれなくていいから。褒めてもらいたくてやっているわけじゃないし!


「じゃあ、申し訳ないけどあそこのベンチでいいか?」

 お財布すっからかんなんで駅のカフェでとは洒落込めないのが情けない……。


「ぜんぜんいいっす。むしろベンチのほうが密着できて嬉しいです」

「密着とか言わないでくれよ。美穂に聞かれたら勘違いするだろ?」


「む~ アタシは単純におにいちゃんに甘えたいだけですから」

「……わかったよ。仕方ないな」


 自販機で飲み物だけ買ってベンチに座る。

 俺の右腕にかなえ、左腕に真奈美がくっついている。そう、くっついているんだ。しがみついているとも言う。


「なんでくっついてくるんだ?」

「アタシはおにいちゃんに甘えたいからっす」

「ウチはおにいに……はて? なんでだろう? ま、いいじゃん?」


 わけわからん。他人から見ても絶対におかしいよな、この状態。両手に花とは言ったものだけど、両手にあるのは妹と妹(偽)だからね。俺的には片手に美穂のほうが何より一番嬉しいのですがね。



 今座っている場所は駅のロータリーの端っこなのであまり人が通らないから、この状態でも比較的落ち着いていられる。別にこの二人にくっつかれようが何も思わないけど他人の目は怖いからね。根も葉もない噂は困るしさ。今日せっかく教室で美穂と恋人同士になったことをカミングアウトできたようなものなのだから余計な噂はノーサンキューだよ。


 俺を真ん中に左右で話が盛り上がっている。それなら俺は必要ないんじゃないかと思うけど違うらしい。退こうとするとぐいっと腕を抱きしめられる。もう勝手にしてくれ……。


 そんな感じで遠い目をしながらロータリーの反対側を見ていたら、どうも一人こちらを思いっきり凝視している男がいるのに気づいた。ロータリーには照明があるといってもさすがにこの距離と暗さではあれが誰だかはわからない。でも、不穏な雰囲気で睨んでいることはなんとなく察しが付いた。


 なんだろう? モテナイくんが両腕に女の子を侍らしている俺を逆恨みでもしているのか? そんなのマジで八つ当たりだから構わないでいただきたい。


 ふと俺が目を逸したすきにそいつは移動したようで、さっきよりも俺たちに近づいてきている。そして今もどんどん近づいてきている。あれ? なんかやばくない?


「なあ、マナ、かなえ。ちょっと離れてくれ。ヤバいかもしれん!」

「「え? なんで?」」


 二人がそう答えた頃にはその男は走り出していた。もちろんこっちに向かって!


 その男の手にはカッターナイフ。細くて軟そうなやつじゃなくて、段ボール箱をザクザク切るのにはこっちなのよね、と母さんが言っていた太い一八ミリ刃のやつだ。


「うわわわわわああああああああ!!!!!!!!! すぎぃはらぁはぁぁ、ぼくのものだぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 もう目の前までそいつが迫ってきていたので真奈美とかなえを左右に突き飛ばして遠ざける。転んで膝を擦りむいても切りつけられるよりはだいぶマシだろう。


「うるおわっ!」


 カッターナイフで切りつけてきたそいつを上半身で受け止めて、そのまま抱えてベンチの向こう側まで力任せにフルスイングで投げ捨てる。


「ぐはっ!」


 そいつは植栽の陰で見えなかったフェンスに叩きつけられたようで一瞬うめき声を上げて動かなくなった。よっわ!


「おにい!!!」

「おにいちゃん!!!」


 二人が駆け寄ってくる。


「おまえら怪我はないか? すまないな、緊急事態とはいえ女の子を突き飛ばしたのは良くなかったな」


「なにをいっているの! そんなことよりもおにいは切られて大丈夫なの⁉」



 ん?




「ちっちっちっち。キレてないですよ⁉」

 指を一本立ててそう答えた。


 ゴンっ!


 顔面パンチを真奈美に食らう……。かなり痛い。


「ばか! ばかばかばか……。おにいのばかぁ~ 心配したんだからねぇ! ふざけないでよ! うわ~ん」


「お、おにいちゃん! うわ~ん」


「ごめん。俺の着ているこのパーカーは防刃パーカーなんだよね。キャンプのとき怪我しないように買ったんだけど、こんなところで役に立つとは思わなかったよ」


 赤色灯を回しサイレンがわんわんうるさいパトカーに救急車。駆け寄る警官、救急隊員。野次馬の人だかりで辺りは騒然とした。


 そんななか俺だけがわんわん大泣きしている二人の女の子にあたふたしていた。




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