第32話

 おはよ。仕事始めだね。

 仕事する気ないわぁ~

 ないわ~

 *****


 その後、二日目、三日目ともつつがなく試験は行われ、最後の科目がチャイムとともに終了となった。


「オレはやったぜ、オレはやったぜ……」

 陽平よ、お前は犬ぞりでも引いていたのか?


 ま、とにかく頑張ったな。たぶん、頑張ったよな? 平気だよな? これで赤点じゃ俺が泣くぜ⁉


「じゃ、自分の席に戻るか……」

 今日は試験が終わったから解散、じゃなくて午後からも授業がある。初日にやった国語のテストはもう返って来るようだ。


「美穂、飯食いに行こうぜ」

「うん。今日はちゃんとお弁当は持ってこなかったよね?」


 ちゃんと持ってこないっておかしなもんだけど、昨晩美穂に言われたとおり弁当は持参しなかった。


「持ってきてないぞ。学食に行くのか?」

「じゃーん‼ 何でしょうか⁉ これは何でしょうか?」


 美穂の両手には布に包まれた小さい箱っぽいのと大きい箱っぽいのが持たれていた。


「…………もしかして、弁当か?」

「あたり! 私の手作り弁当です! あしすてっどばいお母さんだけど」


 そんなことをクラスのみんながまだ残っているっていうのに大きな声で言ってしまう美穂。


 教室がちょっとざわついたよ。


 中間考査も終わったことだし、もういいか。わざわざ言うつもりはないけど、聞かれたら答えちゃうよ! 


のためにお弁当を早起きして作る。いいね! 恋愛小説っぽいよ、すごく。ささ、真司くん、食べてくださいまし」


 誰かに問われるまでもなく『彼氏』って言っちゃったよ、この人。じゃあ、俺も……。


「妹の弁当は今まであったけど、の弁当は生まれてはじめてだよ。すごく嬉しい。楽しみだ。早く頂こう」


「ううう。真奈美ちゃんの腕前にはまだ勝てる気がしないけど、私も頑張ったからご賞味ください」


 おっと真奈美のことは余計だったか。のフレーズにも一部男子からのざわめきが聞こえた気がする。気のせいでありたい。


 味は確かに真奈美のほうが上かもしれなかたけど、俺にとってはそんなのは二の次三の次だった。美穂の手作り弁当はとーーーっても美味かった。一生忘れないかもしれん。





 放課後は約束していたラウ10テンにみんなでカラオケに行く。真奈美もそろそろ待ち合わせの一ツ崎駅に着くはず。


「あ、マナミー! こっちだよ」

 かなえが真奈美を見つけたようだ。


「あは、ごめんね……。ウチが最後になっちゃった」


「いいって。マナだけ家から来たんだからしょうがないさ。それより紹介するな。このでかいのが三ヶ峯陽平でとなりにいるのが岬希海さんだ。今日の主催者だよ。ふたりとも、こいつが俺の妹の真奈美だ。今日はよろしくな――」


 三人で挨拶して笑い合っている。初対面でも物怖じしない真奈美のコミュ力にはいつもながら脱帽するよ。俺だったらペコリと頭を下げて終わりにしちゃいそうだよ。


「さすおにっす。遅れてきたマナミーに後ろめたさを感じさせないトークには脱帽っす。さすおに、アタシのおにいちゃんはさすおにっす。ね、おねえちゃん」


 なんだよ、さすおにさすおにうるさいな。美穂も頷いていないで意味のわからないことを言っているかなえのことを注意してくれよ。


 駅構内でいつまでもダラダラしていると周りからの視線がうるさい。デカイ男二人に美少女四人はどうも目立ち過ぎのようだった。一応、真奈美も美少女に入れておくよ。可愛い妹だから当然だけどな!


 駅前にラウ10行きの送迎バスがいるのでそちらに向かう。


「ねえ、おにいちゃん。全校集会で言っていたのっておにいちゃんのことって本当なんすか?」

「ああ、本当だ。つってもブレザーを切られたぐらいなんだけどな。だからほら、俺だけパーカーなんだよ」


「怖いっすね。アタシの自宅の方でも不審者が出るみたいでご近所のテイが見回りしてくれているんですよ」

「え? かなえが狙われているのか?」


「まさかアタシのはずないっしょ⁉ こんなちんちくりんよりアタシの母親狙いじゃないっすか? あれはあれでかなりの美人で通っているらしいですから」


 栞さんね。酒さえ入らなければ確かに美人かもな。酒さえ入らなければ、ね。


「まあ、どんなことであれ注意してしすぎることはないんだから注意は怠るなよ」

「はーいっす。でも何かあったらおにいちゃんは助けてくれるっすよね?」

「当たり前だろ?」


 一々聞かれるまでもない。美穂のことは一番だけどかなえのことだって十分大事にしたいと思っているんだからな。


「嬉しいっす。おねえちゃん、ほんとにいい男ゲットしましたね」

 おいおい、なんだよ。俺はバトルするモンスターか? 美穂もそれで頬を染めないでくれよ……。





 ラウ10ではカラオケを堪能した。希海さんが思いの外歌が上手で驚いたり、美穂が想定外に音痴だったりと意外な面を見られたのもよかった。


 美穂よ、そう落ち込むな。俺だって音痴だったろ?

 デートコースには、カラオケをNG設定にしておこうな。いや、いっそ二人きりなら音痴でも気にならないで絶唱できるからいいのかもしれないな。


 たっぷり三時間楽しんでお開きとなった。


 ところで返された陽平の国語の点数はなんと平均点ちょうど。違うクラスの希海さんは数学が返ってきたらしいが平均点をやや下回るだけで赤点は完全に回避されたとのこと。この分だと他の教科も良い結果になりそうだと喜んでいた。


 憂いも晴れたところだったのでこの二人のはしゃぎぶりはすごかった。明日はもう部活の練習に復帰するみたいなので今からウキウキ状態のようだ。練習がそんなに嬉しいのかね。嬉しいんだろうね。よかった、よかった。



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