第31話

 正月三が日も今日でおしまいか……。

 今年もイチャラブで妄想GO!

 *****


 美穂と公園で別れ一人S駅にたどり着くとなんだか駅構内が混んでいる。電光掲示板を見ると架線故障の影響でダイヤが乱れていて、運休と遅延が発生している模様だった。


「これじゃ一ツ崎で乗り換えるまでめちゃ混んでそうだな……」

 憂鬱な気分になる。せっかく、嬉し恥ずかしのいい気分だったのにな。


 仕方なく乗車待ちの列に並んでいると二〇分ほどで電車がホームに入ってきた。思っていたよりは満員ではないけどいつもに比べたらだいぶ混雑している。


 車両のドアが開いたら順番に乗っていくのだけど、俺が乗り込もうとしたときに後ろから押された。俺は背が高いのでドアの上部に頭をしこたまぶつけてしまった。そこまで急いで乗り込もうとしなくても大丈夫なのに何処のドイツだと思い振り返ったけどそこには誰もいなかった。


「痛って……。まったく何だよ、ちくしょう」


 ターミナル駅のQ駅では更に人が乗り込んできた。降りた人も多かったけど乗ってきた人のほうが断然多かったので更にギュウギュウになった。二駅で乗換駅の一ツ崎に着くのでそれまで我慢、がまん。ぐいぐいと腰のあたりを押されるもつり革のぶら下がっているポールの方を掴み耐える。


「まいった……。次の電車は一五分後か。少し休もう」

 乗り換えの私鉄の下り線ホームのベンチで一息つく。朝の通学時も混むけどこの私鉄の方はあそこまで混まないので疲れてしまったよ。



 *



「ただいま」

「遅かったね、おにい」


 そういえば真奈美も中間テスト中だから帰りが早いんだよな。暗くなるまで一人にさせちゃって申し訳なかったな。せめて連絡ぐらいは入れておくべきだったよ。


「悪かったな。美穂んとこ行ってたんだ」

「ふ~ん、そかそか。ならしょうがないね。ご飯は作っておいたから一緒に食べようよ」

「しょうがないのか? ま、いいや。飯サンキューな、すぐ着替えてくるわ」


 ちゃんとご飯を作っておいて待っているなんてホントできた自慢の妹だよ。こいつの彼氏になるやつは幸せものだと思うぞ。カレシなど認めないが‼


「あっ‼ おにい、チョット待って! どうしたの、ソレ!」

「どうしたって、何が? あっ、何だこれ⁉」


 真奈美に指摘されたのは俺の着ている高校の制服のブレザーの背中側。


 ビリビリに破れていた。


「やっべ。知らないうちにどっかに引っ掛けて破いちゃったのかな? 怒られるなぁ」

 結構高いんだよね、制服って。俺的には紳士服のコ○カとか青○とかのやっすいブレザーで十分なんだけどな。


「おにい……。破れたんじゃないよ、これ。切られているんだよ、カッターナイフかなにかで」


 言われて切れ目を見ると確かに切り口が引っ掛けて破いたときみたいにギザギザじゃないスッと直線的で鋭利な刃物で切られているなめらかな切り口になっていた。



 程なく母さんが帰宅したので事情を説明して警察に被害届を提出した。同様の事件が起きるかもしれないので他の乗客達への警戒のためもある。


 それにしてもどこでやられたのだろう? 私鉄は混んでいなかったから一ツ崎からずっと座って移動できた。やられたなら、JRのS駅から一ツ崎までの区間かもしれない。でも、むちゃくちゃ混んでいたからどこで誰が? とか、ぜんぜんわかんない。怪しいやつなんて見てないし、見たってわからないかもしれない。う~ん。


「ねえシン、あなた電車に乗っているときになにかおかしなことには気づかなかった? ん~、例えば突き飛ばされたとか、足をかけられたとか?」


 警察からの帰り道、母さんに再度何か思い出さないかと聞かれる。う~ん……う~ん……。


「あ、思い出した。そういえばS駅で電車に乗る寸前に後ろから押されたよ。ほらここ、赤いでしょ? 押されたはずみで車両のドア上にぶつけたんだ。あと、一ツ崎駅に到着する直前ぐらいに腰のあたりを無闇にぐいぐいと押されたよ。そうだ、そんなのがあったよ」


「じゃあ、警察に戻りましょうか」

「え? えぇ~ まじで?」


 ………。

 ……。


「わかりました。S駅の防犯カメラと一ツ崎の防犯カメラを確認してみます。また何か思い出したら、電話でも構わないので本署までご連絡ください」



「はあ、どうしよう制服」

「どうせ来週から衣替えでしょ? お父さんのボーナスが入ったら買ってあげるからそれまでジャージでも着て我慢しなさいよ」


「ジャージ通学とか中学生じゃあるまいし――」

「仕方ないでしょ? 文句があるなら犯人に言ってちょうだいね?」

「……くっそ。どこのどいつかふらんすか知らないが、犯人許すまじ」


 S駅から一ツ崎までは美穂も使う路線なので注意をしておこうと連絡をしたんだけど、俺の身体にはコブが一つぐらいできただけで他はなんともないのに美穂は電話口で俺のことが心配だと泣いてしまった。

 それを宥めるのに小一時間はかかってしまったが、これもまた犯人のせいなので許すまじ、との思いが強くなった。



 ジャージ登校はどうしても嫌だったんで私服パーカーを着て学校に行った。


 先生には被害届の写しを見せて了解を得たので問題はない。ただ、『我が校の生徒が事件に巻き込まれた』ということで、試験前に全校集会が行われることになってしまった。

 いやホント注意喚起はいいんだけど、試験前に申し訳ないです。これもなにも犯人(以下略)。



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